日本の食の宝、和牛。その輸出をめぐる不正事件が再び明るみになり、波紋を広げています。福岡県警は、カンボジア向けと偽って香港へ和牛の冷凍牛肉約30トン(2億数千万円相当)を輸出したとして、貿易会社代表の中国籍の男ら3人を逮捕しました。世界的な和牛ブームの裏で、一体何が起きているのでしょうか?
香港への輸出、なぜ偽装? コストと手続きの簡略化が目的か
事件の核心は、輸出先の偽装にあります。本来、香港へ和牛を輸出するには、日本の農林水産省動物検疫所が発行する輸出検疫証明書が必要となります。香港は日本と牛肉の輸出入に関する厳しい条件を定めており、衛生基準も高く設定されています。牛肉の処理は、厚生労働省が認定した専用の施設で行わなければならず、微生物検査など細かなチェック項目も設けられています。
一方、カンボジアへの輸出は、これらの手続きが大幅に簡略化されています。認定施設での処理や食肉衛生証明書の提出も不要で、通関も比較的スムーズに行えるのです。
捜査関係者によると、逮捕された3人は認定施設で処理されていない牛肉を調達し、輸出先を偽装することでコストと手間を省こうとしたと見られています。香港向けの認定施設は全国にわずか14か所しかなく、不正輸出はこうした背景から発生した可能性があります。
和牛の輸出
和牛ブランドへのダメージは計り知れない
和牛の輸出偽装事件は、今回に限ったことではありません。近年、各地で同様の事件が相次いで発生しています。2023年2月には神奈川県警が横浜港からの不正輸出で中国籍の男らを逮捕、昨年5月には兵庫県警が「神戸ビーフ」などの輸出先偽装で4人を逮捕しています。
これらの事件は、和牛ブランドの信頼性を揺るがす深刻な問題です。食の安全に対する消費者の不安を高め、和牛の国際的な評価を損なう恐れがあります。和牛の輸出量は2024年には1万トン、輸出額は648億円に達し、10年前の約8倍に成長しています。弘前大学の石塚哉史教授(食料経済学)は、「アジアの富裕層を中心に、海外市場への期待は大きい」と指摘しています。しかし、不正輸出が続けば、この成長も阻害される可能性があります。
消費者の信頼回復が急務
和牛は日本の誇る食文化であり、その品質と安全性を守ることは極めて重要です。不正輸出を根絶するためには、関係機関の連携強化、監視体制の強化、そして何より輸出業者の意識改革が必要です。消費者の信頼を取り戻し、和牛ブランドの価値を守っていくためには、関係者全員が真摯に取り組む必要があります。