日本の音楽シーンを彩る海外アーティストの招聘。その舞台裏で活躍する「呼び屋」という職業をご存じだろうか? マドンナやボン・ジョヴィの日本初公演を実現させた伝説の呼び屋、宮崎恭一氏の著書『呼び屋一代 マドンナ・スティングを招聘した男』から、今回は世界的テノール歌手、フローレス来日公演にまつわる秘話を紹介する。華やかな舞台の裏側には、予想外の出来事やアーティストのわがままに振り回される呼び屋の苦労が隠されていた。
契約書の書き換え事件
フローレスのような世界的テノール歌手の来日公演は、契約から既に波乱の幕開けとなることも
フローレス氏の来日公演に際しては、航空券の手配からひと悶着あった。当初、フローレス氏はファーストクラス、ピアニスト兼指揮者はビジネスクラスで交渉がまとまっていた。ところが、フローレス氏から「ファーストクラスはやめてもいいから、ビジネス3枚にしてほしい」との申し出があった。快諾したものの、後日届いた契約書を確認すると、ファーストクラス2枚、ビジネスクラス1枚に勝手に書き換えられていたのだ。英文契約書にサインする前に気づけなかった自分のミスとはいえ、驚きを隠せなかった。
ホテル騒動:シャングリ・ラからパレスホテルへ
ホテルの変更は、呼び屋にとって大きな負担となる。時には満室のホテルに部屋を確保するなど、奔走を強いられることも
宿泊ホテルについても、当初はシャングリ・ラホテルで話がまとまり、2部屋を予約していた。しかし、来日1週間前になって突然、「パレスホテルに変更したい」との連絡が入った。どうやら奥さんに内緒で連れてきた愛人からのリクエストらしい。シャングリ・ラホテルには何度も謝罪し、パレスホテルの予約に奔走した。しかし、パレスホテルは満室。代替案として新高輪プリンスホテルを提案するも、「格落ちだ」と一蹴されてしまった。世界的なオペラ歌手、カウフマン氏の来日公演時でさえ、サントリーホールでのコンサート後に宿泊したのはANAインターコンチネンタルホテルのスイート(1泊30万円)だった。パレスホテルも高額な部屋であることは間違いない。それでも、パレスホテルの知人を頼り、なんとか部屋を確保することができた。
世界的アーティストの来日公演を支える苦労
一流アーティストの来日公演を実現するには、契約内容の確認からホテルの手配まで、細心の注意と臨機応変な対応が求められる。呼び屋は、アーティストのわがままにも冷静に対処し、公演成功のために尽力する。華やかな舞台の裏側には、こうした呼び屋の苦労と努力が隠されているのだ。音楽業界のベテラン、山田一郎氏(仮名)は、「呼び屋はアーティストと日本の架け橋。彼らの存在なくして、日本の音楽シーンの発展はなかっただろう」と語る。
まとめ
今回は、フローレス氏の来日公演にまつわるエピソードを紹介した。契約書の書き換えやホテルの変更など、予想外の出来事にも冷静に対処する呼び屋の仕事ぶりは、まさにプロフェッショナルと言えるだろう。次回も、呼び屋として活躍した宮崎氏の経験談を通して、音楽業界の舞台裏に迫る。