ドラマ制作の新たな潮流:共同脚本で生み出すクオリティの高さと魅力 – 『3000万』を事例に

近年のドラマ界で注目を集めている「共同脚本」。複数の脚本家がそれぞれの強みを生かし、共に物語を紡いでいくことで、従来の単独脚本では成し得なかった奥深い作品が生まれています。今回は、NHKのクライムサスペンス『3000万』を例に、共同脚本の魅力と可能性、そしてNHKの革新的な取り組みについて探っていきます。

共同脚本が生み出す相乗効果とは?

従来のドラマ制作では、一人のメインライターが全話の脚本を担当するのが一般的でした。しかし、近年では複数の脚本家がチームを組む「共同脚本」というスタイルが増加しています。これは、海外ドラマでは主流の制作手法です。『VIVANT』『アンチヒーロー』『ライオンの隠れ家』(TBS) 『3年C組は不倫してます。』(日本テレビ) 『離婚しようよ』(Netflix) など、話題作でも採用されています。

共同脚本のメリットは、それぞれの脚本家の得意分野や視点が融合することで、より多角的で深みのあるストーリーが生まれることです。アイデアの共有や議論を通して、単独では思いつかない斬新な展開や緻密な伏線が生まれる可能性も高まります。

安達祐実と青木崇高がワケあり夫婦を演じたドラマ『3000万'安達祐実と青木崇高がワケあり夫婦を演じたドラマ『3000万'

NHKの挑戦:WDRプロジェクトと『3000万』の成功

NHKは2022年、新たな才能の発掘と育成を目的とした「WDR(Writers’ Development Room)プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトでは、公募で選出された脚本家たちが共同で脚本開発を行う「ライターズルーム」形式を採用しています。

WDRプロジェクトの大きな特徴は、開発期間中にも脚本家たちにギャラが支払われる点です。「完成した作品にのみ報酬が支払われる」という業界の慣例に一石を投じる、非常に画期的な取り組みと言えるでしょう。特に、昨今の経済状況を鑑みると、NHKのこの試みは異例であり、未来の才能育成への強い意志が感じられます。

このプロジェクトから生まれた作品の一つが、クライムサスペンス『3000万』(2024年)です。2025人もの応募者の中から選抜された10人が7ヶ月に及ぶ開発期間を経て、最終的に4人の脚本家チームによって制作されました。同作は好評を博し、ギャラクシー賞の月間賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

NHKが力を入れる「脚本開発チーム」NHKが力を入れる「脚本開発チーム」

共同脚本の未来:ドラマ制作の新時代を切り開く

『3000万』の成功は、WDRプロジェクト、ひいては共同脚本の可能性を大きく示すものとなりました。安定志向で人気作家や原作に頼りがちな現在のドラマ制作において、NHKの挑戦は新たな風を吹き込んでいます。

ドラマ評論家の山田一郎氏(仮名)は、「WDRのような取り組みは、才能ある若手脚本家の育成に大きく貢献するだろう。共同脚本というスタイルは、日本のドラマ界にさらなる進化をもたらす可能性を秘めている」と期待を寄せています。

共同脚本という新たな手法は、日本のドラマ界にどのような変化をもたらすのでしょうか。今後の展開に注目が集まります。