日本全国でクマの出没が相次ぐ中、11月13日には警察官がライフル銃を用いてクマを駆除することを可能にする国家公安委員会規則が施行されました。これは市民の安全を守るための重要な一歩ですが、同時にクマという動物が持つ圧倒的な生命力と、遭遇時の対処法の難しさを改めて認識する必要があります。特に、経験の浅い者がクマと対峙する際には、その危険性を深く理解しておくことが不可欠です。
クマの驚異的な生命力と戦闘能力
猟友会札幌支部ヒグマ防除隊の隊長である玉木康雄氏は、クマの脅威について次のように警告しています。「クマは心臓や肺などの重要器官を損傷しても、平気で100m走り、茂みの中に隠れて追ってくる人間を迎え撃つ戦闘能力をもつ動物なんです。」この言葉は、クマの生命力が想像を絶するほど強いことを示しています。ヒグマはもちろん、大きなツキノワグマも同様の能力を持つと考えられています。
被弾したクマは、撃った人間に向かって突進してくることもあれば、死んだと見せかけて突然起き上がり襲いかかることもあります。そのため、猟友会の隊員たちは、被弾したクマにむやみに近づくことはせず、しばらく様子を見た上で、クマの顔が向いていない方向から慎重に回り込みます。そして、わずかでも生命反応があれば、とどめとして再度頭部を狙う徹底した対応を取ります。
猟友会札幌支部ヒグマ防除隊の隊長、玉木康雄さんが語るクマの脅威
致命傷を与えるための高度な射撃技術
クマを確実に無力化するためには、高度な射撃技術が求められます。玉木隊長は、「最終的には出血多量で死にますが、そうなるまでに時間がかかる。動かないようにするには、脳から脊髄につながる神経を一発で仕留める射撃能力が求められます」と語ります。運動神経を司る神経を切断できれば、たとえクマが生きていたとしても動きを封じることができ、安全にとどめを刺すことが可能になるからです。
しかし、脳を狙うことも簡単ではありません。「頭に対して垂直に当たればいいのですが、角度が浅いと致命傷にならない。どんな角度だったら致命傷を与えられるのか判断できる能力も必要とされます」と玉木隊長は指摘します。これは、単に狙いを定めるだけでなく、状況判断力も伴う専門性の高い技術であることを意味します。
「高所にいるクマ」を撃つことの危険性
テレビのニュースなどで、市街地の柿の木に登っているクマの姿を見かけることがあります。一見すると撃ちやすい状況に見えますが、玉木隊長は「木の上にいるクマを撃つことは、弾を受け止める安土(盛り土)がないので、できません」と述べ、その危険性を強調します。
さらに、一般的にも斜面など高い位置にいるクマは原則として撃ってはいけないというのが猟友会の定説となっています。自分より高い位置にいるクマを狙撃すると、クマは落下しながら時速40~45kmといわれる通常速度を上回る速さでダッシュして向かってくる可能性があるため、2発目を準備する時間がないとされます。また、市街地で発砲した場合、跳弾が住民を傷つける二次被害の懸念も存在します。
警察官がクマと対峙する際の課題
今回の規則施行により、警察官もクマ駆除にあたる可能性が出てきました。玉木隊長は警察官の銃器取り扱いについて十分な信頼を寄せつつも、次のように懸念を示します。「どのようにクマが動くのか、どういう姿勢になろうとしているのかなどは、クマとフィールドを共にしているからこそわかること。初めてクマと対峙する人には、なかなか難しいと思います。」
この言葉は、クマの生態や行動様式に関する深い知識と長年の経験が、安全かつ効果的な対処には不可欠であることを示唆しています。専門家である猟友会の知見を共有し、警察官の皆様が現場で安全に、そして適切に対応できるよう、さらなる学習と連携が求められます。
今回の規則施行は、私たち人間がクマとの共存を模索する上で、その危険性を決して軽視してはならないという重要な教訓を与えています。専門家の知識と経験に学び、冷静かつ慎重な行動が何よりも重要です。





