日本各地で報告されているクマによる被害は、もはや台風や地震に匹敵する「自然災害」として捉えるべき時期に来ています。従来の常識が通用しない状況となり、被害を未然に防ぐためには、私たち自身の意識を大きく変える必要があると、岩手大学の山内貴義准教授は警鐘を鳴らしています。
深刻化する「クマ禍」：過去最多の死者数
日本全土を脅かす災害級の「クマ禍」は、人身被害の件数で記録を更新し続けています。2023年度には過去最多となる200人超の被害が記録されましたが、今年度も同時期で同水準の件数がカウントされており、その深刻さが浮き彫りになっています。特に懸念されるのは死者の数で、10月末までにすでに12人がクマの犠牲となり、さらに11月3日には秋田県湯沢市で13人目の犠牲者とみられる女性の遺体が山中で発見されるなど、事態は一段と悪化しています。
環境省担当記者によると、これまでの過去最悪の死者数は2023年度の6人でしたが、今年はすでにその倍以上の数に達しています。日本に生息するクマは、北海道のヒグマと本州・四国に分布するツキノワグマの2種類。今年亡くなった10人以上の犠牲者の大半は、東北地方を中心にツキノワグマによるものです。
未曾有のクマ被害に揺れる日本社会
「人喰い熊」の出現とその背景
見過ごすことのできない新たな脅威として、「人喰い熊」の被害が各地で報告されています。今年10月には、岩手県北上市で1頭のクマによる連続的な死亡事故が2件発生しました。このクマは地元の猟友会によって駆除されましたが、その後の調査で衝撃の事実が明らかになりました。前述の環境省担当記者は、「遺体の状態や、駆除されたクマの胃の内容物から、人が“捕食”されたのは明らかでした」と語っています。
クマは冬眠に備える秋に、脂肪源となるドングリやブナの実を大量に食べますが、今年を含めこれらの木の実が大凶作の年は、食べ物を求めて人里に出没する傾向があります。では、飢えたクマがなぜ「人喰い化」するのでしょうか。森林総合研究所東北支所の大西尚樹氏は、そのメカニズムを以下のように解説しています。
「クマにとって、人も同じ大型動物であり、できれば避けたい存在です。人を襲って食べようとすることは通常ありません。」しかし、例外も存在すると大西氏は続けます。「北上市の最初の被害者はキノコ採りのために山に入った方で、おそらく出会い頭の事故により、驚いたクマに襲撃されたと考えられます。この経験を通じて、クマは人間が比較的簡単に倒せること、そして食べられることも学んでしまった可能性があります。」さらに、過去にシカやイノシシなどの大型動物の死体を食べた経験も影響しているかもしれないと指摘されており、そうなると「2人目の被害者は、“食べるために狙われた”可能性が高い」と大西氏は分析しています。
意識改革が求められる日本のクマ対策
過去最悪の被害状況と、「人喰い熊」の出現は、日本のクマ対策に抜本的な意識改革が求められていることを示唆しています。クマが人里に近づく原因は複合的であり、特に食料不足の年はその傾向が強まります。人間がクマに「簡単な獲物」だと学習させるような状況をいかに避けるかが、今後の被害軽減の鍵となります。地域社会と行政が連携し、クマとの共存ではなく、適切な距離を保つための新たな対策と、住民一人ひとりの警戒心と行動変容が不可欠です。
出典: Yahoo!ニュース (2025年12月1日掲載)
https://news.yahoo.co.jp/articles/917ccd90af328ca7ad1cf565c9775966a263e3f8
