私立高校の授業料無償化。一見、教育の機会均等に貢献するように聞こえますが、その裏には公立高校の衰退や教育格差の拡大といった深刻な懸念が潜んでいるかもしれません。今回は、無償化政策の光と影に迫り、日本の教育の未来について考えてみましょう。
無償化で公立高校が定員割れ? 大阪の現状
聞こえの良い「無償化」という言葉。しかし、その実態は必ずしも理想通りではないようです。大阪府では所得制限撤廃による私立高校の実質無償化後、公立高校の多くが定員割れに陥っているという現状が報告されています。大阪府立佐野工科高校の松野良彦校長によると、全日制145校のうち、約半数の70校が定員割れを起こしているとのこと。これまで定員割れとは無縁だった中間層向けの高校にも影響が出ているといいます。私立高校は単願での合格決定が早く、一般入試でも3教科受験の学校が多いことから、生徒が私立に流れていると松野校長は指摘しています。一度定員割れを起こすと「定員割れした高校」というレッテルが貼られ、受験生の数を回復するのは非常に困難です。
大阪府の公立高校
無償化政策は、公立高校の地盤沈下を招く可能性があるという厳しい現実を突きつけています。
授業料値上げや教育の独自性喪失の懸念
無償化に伴う授業料の値上げも懸念材料の一つです。慶應義塾大学経済学部の赤林英夫教授は、無償化によって経営難の私立高校が救済される一方で、教育の質が必ずしも高くないにも関わらず、魅力的な制服や綺麗な校舎を売りに生徒を集めていた私立高校に、これまで公立高校に進学していた層が流れる可能性を指摘しています。また、無償化に乗じた授業料値上げや、授業料以外の費用増加といった懸念も存在します。
国の規制強化で教育の独自性が失われる?
立教大学社会学部の中澤渉教授は、私立高校の独自性喪失への懸念を表明しています。私立高校は学習指導要領に沿いつつも、独自の教育プログラムで付加価値を生み出しています。しかし、税金への依存度が高まると、国からの規制も厳しくなり、教育の独自性が失われる可能性があると中澤教授は警鐘を鳴らしています。
義務教育と高校無償化の矛盾
中澤教授はさらに、義務教育である小中学校は私立だと授業料がかかるのに、義務教育ではない高校が無償化されることへの矛盾を指摘しています。「義務教育が有償で、義務教育ではない高校が無償というのは制度設計としておかしい」と疑問を呈しています。
教育の未来を守るために
私立高校無償化は、教育の機会均等という理想を掲げていますが、その実現には多くの課題が山積しています。公立高校の衰退、教育格差の拡大、教育の独自性喪失といった懸念を払拭し、真に子どもたちの未来にとって良い教育を実現するために、更なる議論と制度設計の改善が必要不可欠です。