【小菅優 音楽と、夢に向かって】海に沈んだ仏の伝説の街


 今月各地で演奏するプログラムに、印象派の作曲家、ドビュッシーの前奏曲「沈める寺」が入っています。この作品は、仏ブルターニュ地方のある伝説のイメージに基づいているといわれています。

 その伝説では、王様が海のそばに住みたいというわがままな姫のために、イスという大きな街を建て、街に水が入ってくるのを防ぐため高い堤防を造り、水門の鍵を守っていました。

 しかし姫はある日、悪魔のささやきにだまされ、王が寝ている時、水門の鍵を盗みます。姫は鍵を開け、一瞬で街は大洪水となり、海底に沈んでしまいます。

 この曲では、霧がかかった海の中からそのイスの街の大聖堂が姿を現し、聖歌や鐘の音が聞こえてきたかと思えば、また沈んでいくという神秘的なイメージが描写されています。

 人魚と化した姫が今も呪っていると伝えられる、沈んだイスの街の舞台、ドゥアルヌネに行きました。普通、夏のお日さまに恵まれた季節にバカンスに行くような場所ですが、この寒い季節はこの曲にぴったりのような気がしました。

 ドゥアルヌネの海岸は今にも伝説の人々が飛び出てきそうな、素朴でミステリアスなところがあります。海岸近くの教会の鐘の音はまだらで力強く、風の音とともに街中に響いているようです。この音に耳を澄ましていると、最初は興奮を覚え、徐々に何だか落ち着いた気持ちになりました。

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