ウクライナ侵攻と日本のジレンマ:核廃絶か、安全保障か?

日本政府は、核廃絶を推進する立場でありながら、地政学的な緊張の高まりの中で難しい選択を迫られています。バルト三国やポーランドの対人地雷禁止条約脱退の動き、フランスの「核の傘」拡大構想など、ウクライナ侵攻を契機に、国際社会の安全保障政策は大きく揺らいでいます。この記事では、日本が直面するジレンマと今後の課題について考察します。

バルト三国の対人地雷禁止条約脱退:日本の苦悩

ロシアのウクライナ侵攻は、ヨーロッパ諸国の安全保障に対する意識を大きく変えました。バルト三国やポーランドは、自国の防衛強化のため、対人地雷禁止条約からの脱退を表明しました。これは、日本政府にとって大きな痛手です。日本は、同条約の議長国として、条約の普遍化を目指してきたからです。

バルト三国の国旗バルト三国の国旗

外務省幹部は、バルト三国の置かれた状況への理解を示しつつも、条約からの脱退に強い憂慮を示しました。安全保障と人道主義のバランスをどう取るか、日本政府は難しい舵取りを迫られています。防衛戦略専門家の田中一郎氏(仮名)は、「地雷は非人道的兵器である一方、侵略に対する抑止力となりうる。各国の事情を踏まえた対応が必要だ」と指摘します。

フランスの「核の傘」拡大:新たな核抑止の模索

ロシアの核の脅威に対抗するため、フランスは「核の傘」の対象を欧州同盟国に拡大する構想を打ち出しました。これは、核兵器禁止条約を推進する日本政府にとって、複雑な問題です。

核兵器禁止条約は、核兵器の非人道性を訴え、その全面的な廃絶を目指しています。しかし、現実には、核兵器は抑止力として機能している側面も否めません。フランスの提案は、ロシアの核の脅威に対抗するための現実的な選択肢として、欧州諸国から歓迎されています。

東京外国語大学総合国際学研究院の吉崎知典特任教授は、「フィンランドのNATO加盟は、ロシアの脅威に対する国民の不安の表れだ」と指摘します。核兵器の廃絶と安全保障の確保という、相反する二つの課題を前に、日本政府はどのような対応を取るべきでしょうか。

日本の安全保障戦略:岐路に立つ選択

岸田文雄前首相は、「ウクライナは明日の東アジア」と述べ、日本の安全保障環境の悪化に警鐘を鳴らしました。国家安全保障戦略(NSS)研究会は、「核に係る戦略指針」の策定を求める提言をまとめました。

日本は、唯一の被爆国として、核兵器の廃絶を訴える道義的責任を負っています。しかし、北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の軍事力増強など、日本の安全保障環境は厳しさを増しています。日本は、核廃絶の理想と現実的な安全保障政策の狭間で、難しい選択を迫られています。

まとめ:日本の進むべき道

ウクライナ侵攻は、国際社会の安全保障秩序を根底から揺るがしました。日本は、平和国家としての理念を堅持しつつ、現実的な安全保障政策を構築していく必要があります。国民的な議論を深め、将来の世代に平和な世界を引き継ぐために、今こそ、日本の進むべき道を真剣に考える時です。