「定期人事異動」なんてありえない…日本とはまったく異なる「アメリカの働き方」の真実


【写真】「定期人事異動」なんてありえない…日本とはまったく異なるアメリカの働き方

社会学者・小熊英二さんが、硬直化した日本社会の原因を鋭く分析します。

※本記事は小熊英二『日本社会のしくみ』(講談社現代新書、2019年)から抜粋・編集したものです。

職務(ジョブ)の原理

この働き方は、労働者が一定の職務を請け負って、その対価を賃金として受けとるのだ、と考えるとわかりやすい。

雇用主は、請け負ってほしい職務jobの内容を明らかにして、労働者を募集する。そのさい、賃金、勤務条件、勤務事務所、所属部署、その職務に必要な知識・学位・資格、労働基準法での地位などを書いた職務記述書job descriptionを用意する。

職務記述書の学位や資格の条件は、たとえば会計係であればこんなふうだ。「必要な資格 会計学のカレッジ卒学位。ただし、下記を越える実務経験は学歴に代替できるとみなすことができる。三年の簿記または/および口座支払いの実務経験」。

こうして募集を行なう場合に参考にするのは、その職務が求人広告やウェブサイトで、どのくらいの賃金で募集されているかだ。たとえば会計とか、生産管理とか、職務ごとの賃金市場の相場を参考にして、提示する賃金を決める。応募するほうも、いろいろな企業の提示を見ている。

だから、職務が同じなら、企業が違っても賃金にあまり差がつきにくい。ただし現場労働者や下級職員は地域レベルの賃金市場、上級職員は全国レベルや産業レベルの賃金市場を参考にする傾向があるといった差はみられる。さらに上級職員の場合は、業務目標を提示して、雇用主と労働者が俸給額を交渉することが多い。

図2―3は、アメリカに進出する日系企業むけの手引書にあったイラストをもとに、経済学者の木下武男が手直ししたものだ(※図は割愛)。1991年と少し時代が古いが、アメリカにおけるクラシックなやり方がわかりやすく図式化されている。

企業のなかの職務を分析したり、それがどのくらいの賃金に値するかを評価することは、各企業の手に余るので、アメリカでは経営コンサルタント会社が請け負うことが多い。コンサルタント会社のヘイ社が開発したヘイ・システムのように、かなりのシェアを占める格付けシステムも生まれ、それが企業を超えた標準化を促した。

ある職務、たとえばA社のB町事業所で会計係に欠員が生じたとする。そうなると、まずB町事業所の経理部内で適任者を探す。部内に適任者がいなければ、事業所内で公募する。事業所内で適切な人が出てこなかったら、A社の他の事業所か、社外に公募をする。

社内公募の方が優先であるためか、90年代までのアメリカでも、ホワイトカラー中間管理職の約9割は企業の内部昇進だったと指摘されている。ただし近年は、上級の職位であるほど、一般公募で競争になる傾向があるようだ。

社内からの応募でも、社外からの応募でも、応募者が履歴書と学位証明書を携えて応募し、面接をうけ、雇用契約をする。ある職務を請け負う人を、社内から公募するのが「昇進」で、社外から公募するのが「採用」だと考えればいいかもしれない。



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