定年退職後、長年続いた仕事中心の生活リズムが失われ、「生活リズム」をつかめずに自宅に引きこもりがちになる「定年うつ」を経験する人が増えています。このような状態は、社会的リズムから解放され、自分らしいリズムを見つけられないでいる「リズム難民」とも呼ばれます。特に60代、70代でリズムが乱れている場合、不眠や軽度認知障害の予備軍となるリスクが高まると指摘されています。健康で充実した定年後を送るためには、新しい生活リズムを意図的に作り出すことが不可欠です。専門家は、健康な生活リズムを確立するための具体的な方法を提唱しています。
「リズム難民」が招く健康リスクと定年後の現実
仕事一筋だった方が定年後に目標や日々のルーティンを失い、活動が減って引きこもってしまうことは、かつて「定年うつ」として問題視されました。また、夫が終日家にいることで妻がストレスを感じる「夫源病」といった言葉も生まれるほど、定年後の夫婦関係や個人の心理状態は変化しやすい時期です。多くの人が定年後にやりたいこととして「趣味」を挙げますが、実際にどれくらいの時間を充てるか、具体的な計画まで立てている人は少ないのが現状です。おおまかな定年後のイメージがあっても、生活の基盤となる1日のリズムが崩れてしまっては、夢を実現することは困難になります。定年後の時間を有効に活用し、健康を維持するためには、自分に合った「マイリズム」を意識的に作り出し、合理的なタイムマネジメントを行う強い意志を持つことが大切です。
定年後の生活やリズムについて考える高齢男性のイメージ写真
健康なマイリズム確立の基盤:起床時間の決定
自分に合った健康的な生活リズムを作る上で、特に重要となるいくつかの原則があります。これらの原則は生活リズムの骨格を形成しますが、食事のタイミングや活動内容などが昼と夜の役割に沿って合理的に組み込まれた時に、その人にとって最適なリズムが完成します。まず、最も基本的ながら非常に重要なのが、起床時間を決めることです。午前6時から9時の間に起床し、これをほぼ毎日同じ時刻に保つことが推奨されています。
なぜ午前6時~9時の起床が健康に良いのか
午前6時から9時の間での起床が良いとされるのには、生物学的な理由があります。私たちの体内では、夜間に低かった血中コルチゾールの値が、午前7時から8時の間に最大になるとされています。コルチゾールは「ストレスホルモン」として知られることもありますが、朝の増加は血糖値を上昇させるなど、体が活動するための準備を整える重要な役割を果たします。したがって、このコルチゾール値が最大になる時間帯に合わせて、個人差を考慮しつつ午前6時から9時の間に起きるのが望ましいと考えられています。会社勤めをしていた頃は、始業時間に合わせて起床時間が決まっていましたが、定年後はこの範囲内で自分が自然に起きられる時間を選べば良いのです。ただし、これより極端に早く起きることは避けた方が良い場合もあります。
起床時間の固定と朝日を浴びる習慣の重要性
一度決めた起床時間を毎日ほぼ同じに保ち、同じリズムで生活することが健康維持には極めて重要です。起床後は、可能な限り朝日を浴びることをおすすめします。起床後から午前中の間に20分程度日光を浴びる習慣は、体内時計をリセットし、規則正しい睡眠・覚醒サイクルを促すのに役立ちます。これは、若年勤労者などに見られる、平日と休日で起床時間が大きくずれることで生じる「ソーシャルジェットラグ」(社会的な生活時間と体内時計のずれ)が健康に悪影響を及ぼすことからも理解できます。定年後に自分で起床時間をコントロールできるようになったからこそ、このずれを避け、自分の体にとって最適なリズムを確立することが可能なのです。
まとめ
定年後に陥りやすい「リズム難民」の状態は、不眠や軽度認知障害といった健康リスクにつながる可能性があります。これを避け、充実した第二の人生を送るためには、意識的に新しい生活リズム、すなわち「マイリズム」を作り出すことが重要です。その第一歩として、午前6時から9時の間に毎日ほぼ同じ時刻に起床し、朝日を浴びる習慣を取り入れることが、専門家によって推奨されています。これらの基本的な習慣を確立することが、健康な定年後を送るための基盤となります。
参考文献
- 塩谷英之『睡眠・食事・運動で変える 24時間のリズム習慣』(メディカル・ケア・サービス)