ウクライナ侵攻開始から2年。ロシアによるウクライナの子ども連れ去り問題は、国際社会からの非難を浴び続けています。しかし、この問題の解決をさらに困難にする出来事が起こりました。元米国大統領ドナルド・トランプ氏が、ウクライナからロシアに連れ去られた子どもたちに関するイェール大学の調査プロジェクトへの資金拠出を停止したのです。この決定は、ウクライナの人々に衝撃と怒り、そして将来への不安を与えています。
ヘルソンで見た現実:養護施設運営者の苦悩
ウクライナ南部ヘルソンで児童養護施設を運営するボロディミール・サハイダクさんは、侵攻開始直後、子どもたちがロシア側に連れ去られないよう、必死の思いで親族や職員の元へ避難させました。しかし、それでも数人の子どもたちがロシア占領地域へ送られてしまったのです。サハイダクさんは、「何十人もの努力をたった一人で無にすることができるなんて…子ども連れ去りは犯罪であり、裁かれるべきだ」と憤りを隠せません。
ヘルソンの児童養護施設を運営するサハイダクさんと子どもたち。木の飾りには子どもたちのポートレートが飾られている。(2022年3月20日撮影)
サハイダクさんの養護施設には、2022年6月、身元不明のロシア人4人が訪れ、子どもたちの関連書類を押収していきました。防犯カメラには、民間人の服装をした2人と、軍服を着た2人が施設内を捜索する様子が映っていました。この事件は、ロシアによる組織的な子ども連れ去りの一端を物語っています。
国際社会の対応とアメリカの役割
ウクライナ政府は、1万9500人以上の子どもがロシア本国またはロシア占領地域に連れ去られたと主張し、これは国際法違反であり戦争犯罪だと訴えています。国際刑事裁判所(ICC)も、プーチン大統領と子どもの権利担当の大統領全権代表に対して逮捕状を出しました。しかし、ロシア側は、子どもたちを戦争地域から安全な場所に避難させただけだと主張し、非を認めていません。
資金停止の影響:正義の実現は?
イェール大学の調査プロジェクトは、ウクライナにおけるロシアの人権侵害を記録し、正義を追求するための重要な役割を担っていました。しかし、トランプ氏による資金停止は、この努力に大きな影を落としました。ヘルソンの小児科病院の医師、インナ・ホロドニャクさんも、「このような重要なプロジェクトへの資金停止は、犯罪に手を染めても罰せられないという誤ったメッセージを世界に発信してしまう」と懸念を示しています。ホロドニャクさんの病院でも、子どもたちがロシアに連れ去られるのを防ぐため、医師たちが病状を誇張した書類を作成するなど、必死の努力が続けられました。
未来への希望:ウクライナの人々の願い
サハイダクさんとホロドニャクさんは、トランプ氏の介入によって正義の実現が遠のいたと感じながらも、希望を捨てていません。ホロドニャクさんは、「善と正義、常識の勝利を信じている」と語ります。サハイダクさんは、「ウクライナが強い国にならない限り、正義は実現しないかもしれない」と不安を口にしながらも、子どもたちの未来のために戦い続ける決意を固めています。
ウクライナの子どもたちの未来を守るために、国際社会はどのような役割を果たすべきでしょうか。私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、声を上げていくことが重要です。