中国企業で進む「脱・長時間労働」:ワークライフバランス実現への挑戦

中国では、近年「996(朝9時から夜9時まで週6日勤務)」と呼ばれる過酷な長時間労働が社会問題となっていました。しかし、今年に入り、美的集団(Midea Group)やハイアール、DJIといった大手企業が、従業員のワークライフバランスを重視する動きを見せています。果たして、この変化は中国社会全体に広がるのでしょうか?

残業規制とワークライフバランスへの意識変化

美的集団では、従業員に午後6時20分での退社を義務付け、就業時間後の会議を禁止するなど、大胆な改革を進めています。同社の公式WeChatアカウントには、アフターワークを楽しむ従業員たちの写真とともに、「アフターワークこそが本当の生活の始まりです」というメッセージが掲載されています。

ハイアールも週5日勤務制度を導入し、DJIも午後9時にはオフィスを無人にする方針を打ち出しました。これらの企業の取り組みは、長時間労働が当たり前だった中国の企業文化における大きな転換点と言えるでしょう。従業員からも、深夜残業の負担が減り、プライベートの時間を大切にできるようになったと喜びの声が上がっています。

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背景にあるEUの新労働規制と中国政府の取り組み

こうした変化の背景には、EUが2022年12月に採択した新たな労働規制の影響が大きいと専門家は指摘しています。この規制は、強制労働によって生産された製品の域内販売を禁止するもので、過度な残業も強制労働の定義に含まれています。

また、中国政府も、企業に週44時間という労働時間の上限を順守するよう働きかけています。3月に公表された国務院の消費喚起に向けた計画にも、労働者の休息と休暇の権利を保証し、有給休暇を推奨するよう明記されています。

消費喚起と経済構造転換への期待

時短労働の促進は、輸出依存型から消費主導型への経済構造転換を目指す中国政府の方針とも合致しています。しかし、中国経済の低迷や雇用不安などを考えると、消費喚起は容易ではないとの見方もあります。十分な収入がなければ、消費を増やすのは難しいという現実的な課題も存在します。

長時間労働からの脱却:持続可能な社会への道

国際労働機関(ILO)のデータによると、2023年の中国の週平均労働時間は46.1時間と、日本やアメリカ、韓国よりも長い状況です。長時間労働の是正は、従業員の健康とワークライフバランスの確保だけでなく、持続可能な社会の実現にも不可欠です。

過去には、「996」に対するオンライン抗議や、企業幹部による長時間労働容認発言への批判など、社会的な反発も起きていました。美的集団の新規定に対する従業員の好意的な反応は、長時間労働からの脱却を求める社会的な機運の高まりを示していると言えるでしょう。

しかし、全ての従業員が時短労働の定着を確信しているわけではありません。24時間いつでも電話対応を求められたり、休暇中も会議に参加させられたりするケースも依然として存在します。真のワークライフバランスの実現には、企業文化の変革と政府による継続的な取り組みが必要不可欠です。

今後の展望

中国企業における長時間労働是正の動きは、まだ始まったばかりです。この変化が一時的なものに終わらず、中国社会全体に広がり、持続可能なワークライフバランスの実現につながるのか、今後の動向に注目が集まります。