【カイロ=佐藤貴生】イランが7日、核合意で禁じられた中部フォルドゥの地下核施設でウラン濃縮に着手し、米国だけでなく、合意維持を目指す欧州からも強い非難の声が上がっている。核兵器保有の危機をあおって欧州の経済支援を引き出す瀬戸際戦術は限界に近づきつつあり、合意の履行義務停止が続けば欧州が米側に同調し、狙いとは逆の結果となる可能性も否定できない。
「イランは初めて、核合意離脱の意思を明確かつ乱暴な形で示した。根本的な変化だ」。マクロン仏大統領は6日、イランの「第4段階」となる合意履行放棄を受けてこう述べた。
米国が合意を離脱して原油禁輸を含む制裁を再開し、経済が低迷するイランは合意を段階的に放棄して英仏独に経済関係維持を迫ってきた。フランスは9月に150億ドル(約1兆6千億円)相当の金融支援を提示し、米・イランの首脳会談も模索。事態収拾に努力してきただけに、マクロン氏の発言は欧州の動向を占う上でも重要だといえる。
イランが濃縮を再開したフォルドゥの核施設は首都テヘランの南約100キロの山間部にある。イスラエルなどの攻撃を想定して地下深くに建設され、ロシア製防空システムS300が配備されたとの報道も出た。機密性の高い地下施設でのウラン濃縮再開で、国際社会の疑念が深まりそうだ。
ウランは濃縮度が20%になると核兵器級の90%まで引き上げるのは比較的容易とされる。イランは今回も4・5%と原発燃料並みに抑える見通しで、「対話の余地は残っている」と強調して欧州をたぐり寄せる狙いがにじむ。
ただ、国際原子力機関(IAEA)の立ち入り調査をめぐっては不協和音も出ている。ロイター通信は6日、中部ナタンズのウラン濃縮施設で先週、IAEAの査察官が一時拘束されたと伝えた。核合意締結以降で初めてとみられる。
合意の履行状況を監視するIAEAの査察が妨害される事態が続けば、欧米の不信感が一気に高まることは必至。イラン核問題は新たな局面を迎えつつある。