アメリカの反トランスジェンダー政策が、カナダ人歌手のベルズ・ラーセン氏の米国ツアー中止という悲しい決断に繋がりました。出生時の性別と一致しない身分証明書しか認められないという移民局の決定を受け、ラーセン氏は深い悲しみと怒りを表明しています。今回は、この出来事の詳細と背景、そして音楽業界への影響について掘り下げていきます。
反トランス政策がアーティストの表現の場を奪う
ラーセン氏は、トランスジェンダー男性として、自身の経験を音楽で表現し、世界中の人々と共有することを目指していました。しかし、トランプ前大統領が署名した大統領令により、その夢は断ち切られることとなりました。この大統領令は、「生物学的な男女」のみを性別として認め、パスポートやビザなどの身分証には出生時に割り当てられた性別の記載を義務付けるものです。
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この政策により、ラーセン氏は米国音楽家連盟(AFM)からビザ申請が不可能であると告げられました。ラーセン氏は自身のインスタグラムで、この状況に対するやるせない思いを吐露しています。「今の社会・政治的な状況では、『今はアメリカでツアーができない』なのか『もう二度とアメリカでツアーができない』なのか、どう伝えればいいか正直わかりません」と、将来への不安を綴っています。
ニューアルバム発売直前の悲劇:音楽とアイデンティティの葛藤
皮肉なことに、この発表は、ラーセン氏の新しいアルバム「Blurring Time」の発売日のわずか2週間前に行われました。このアルバムは、ラーセン氏の性別移行にまつわる個人的な経験を綴ったもので、ホルモン治療前後のラーセン氏の声がそれぞれ収録されています。
ラーセン氏にとって、このアルバムは「生涯の業績」と呼べるほど大切な作品です。しかし、アルバム制作を行った環境と、トランスジェンダーの人々に対する社会の現実とのギャップに、「日々、打ちのめされている」と語っています。
世界からの共感と反響:アーティストの苦悩に寄り添う声
ラーセン氏の投稿には、アメリカ国内外から多くの共感の声が寄せられています。「(反トランス政策は)腹立たしい」「悲しい」といったコメントに加え、アメリカやカナダで活動する多くのアーティストからも支援のメッセージが届いています。
音楽は国境を越える力を持つと言われますが、政治的な壁がアーティストの表現の自由を阻害する現状は、非常に残念なことです。 音楽業界全体で、多様性を尊重し、すべての人が平等に表現の場を持てる社会の実現に向けて、更なる努力が必要とされています。
未来への希望:音楽の力で社会を変える
ラーセン氏のケースは、反トランスジェンダー政策が個人の人生に及ぼす深刻な影響を浮き彫りにしました。音楽業界だけでなく、社会全体でこの問題について真剣に考え、より包摂的で公正な社会を築いていく必要があるのではないでしょうか。ラーセン氏の音楽が、多くの人々の心に響き、社会を変える力となることを願います。