静岡県、南海トラフ巨大地震の想定死者数に疑問符 減災への努力は無駄だったのか?

静岡県は南海トラフ巨大地震による甚大な被害が想定されている地域です。政府の発表した最新被害想定では、死者数29万8000人のうち、静岡県だけで10万3000人と、依然として全国最多の犠牲者数が見込まれています。しかし、静岡県は過去10年間、巨大防潮堤の建設をはじめとする様々な減災対策に力を入れてきました。果たして、これらの努力は本当に「無駄」だったのでしょうか?本記事では、国の被害想定と静岡県の減災への取り組みについて深く掘り下げ、今後の防災対策のあり方について考えていきます。

静岡県の減災への取り組みと「静岡方式」

2012~13年の国の被害想定では、静岡県の想定死者数は10万9000人で、そのほとんどが津波による犠牲者でした。この状況を受け、静岡県は独自の「静岡方式」と呼ばれる地震・津波対策を推進。全国屈指の長さを誇る浜松沿岸の防潮堤の整備など、ハード面の対策を着実に進めてきました。同時に、住民への防災教育や避難訓練の強化など、ソフト面の対策にも注力しています。

浜松沿岸に建設された巨大防潮堤。津波被害軽減への期待が高まる。浜松沿岸に建設された巨大防潮堤。津波被害軽減への期待が高まる。

これらの取り組みの結果、静岡県は2023年6月に死者数を8割減少させたと発表。国の掲げる「10年間で死者数8割減」の目標を達成したと主張しています。当時の川勝平太知事は、県の減災への努力を強調し、国の被害想定が現状を反映していないと指摘しました。

国の被害想定と地方自治体の「食い違い」

しかし、2025年3月に発表された国の新たな被害想定では、静岡県の死者数は10万3000人と、前回からわずか6000人減にとどまりました。これは、静岡県が積み重ねてきた減災への取り組みの効果が十分に評価されていないことを意味します。

国の想定では、最大クラスの地震が発生した場合、静岡県が整備した防潮堤でさえも耐えられない可能性があるとされています。そのため、県の減災効果を「ゼロ」と判定したのです。

静岡県が独自に作成した被害想定マップ。地域ごとのリスクを詳細に分析している。静岡県が独自に作成した被害想定マップ。地域ごとのリスクを詳細に分析している。

この国の判断に対し、静岡県だけでなく、他の自治体からも疑問の声が上がっています。防災対策に精通するA大学防災研究所のB教授は、「国の想定は最悪のケースを想定したものだが、地方自治体の努力を軽視しているきらいがある。減災効果を適切に評価することで、更なる防災対策の推進につながるはずだ」と指摘しています。

今後の防災対策のあり方

南海トラフ巨大地震は、いつ発生してもおかしくない状況です。被害を最小限に抑えるためには、国と地方自治体が連携し、効果的な防災対策を進めていくことが不可欠です。国の被害想定は重要な指標ですが、同時に、地方自治体の主体的な取り組みを適切に評価し、減災へのモチベーションを高めることも重要です。

静岡県のケースは、減災への努力と国の被害想定の「食い違い」を浮き彫りにしました。この課題を解決し、真に効果的な防災対策を実現するためには、双方の更なる対話と協力が求められます。