介護の現場は「4K」-きつい、汚い、給料が安い、希望が持てないと揶揄されるほど、過酷な現実を抱えています。10年間、老人ホームで夜勤を経験した中で、私は様々な入居者と出会い、彼らの心に触れてきました。今回は、DV夫を殺害し刑務所を出所後、グループホームに入居してきた車いすの女性、竹下ミヨ子さん(仮名・48歳)との忘れられないエピソードをお話したいと思います。
グループホームでのコミュニケーション:孤独な魂たちの叫び
グループホームでは、入居者同士の会話は驚くほど少ないものです。認知症を抱える彼らは、相手の気持ちを汲み取ることが難しく、会話が成立しないことが多いのです。そのため、自分の言葉に耳を傾けてくれるスタッフに自然と心を開いていきます。まるで、純粋無垢な小学1年生のようです。
竹下さんも例外ではありませんでした。彼女はスタッフ、特に男性である私によく話しかけてきました。しかし、その内容は時に卑猥な言葉を含んでおり、戸惑いを隠せないこともありました。
車いすの女性
刑務所帰りの女性:心に秘めた孤独と渇望
ある日の夕食時、配膳のために竹下さんに近づくと、彼女の手が私の下腹部に触れました。そして、「…い、いれる」と囁くように言いました。聞き取れなかった私は、思わず施設長の吉永さん(仮名)に確認すると、彼女は顔を赤らめ、「女の私にはとても言えません」と口ごもりました。そして、「川島さん、彼女に気にいられたみたいですよ」と付け加えました。吉永さん曰く、竹下さんは女性スタッフにはほとんど話しかけず、このような言葉を口にするのも私に対してだけだというのです。
その時の私は、竹下さんの言葉よりも、吉永さんの一瞬赤らんだ顔に心を奪われてしまいました。竹下さんは前歯のない口で体を揺らしながら笑っていました。その姿は、どこか痛々しく、胸が締め付けられるようでした。10年以上もの刑務所暮らしの中で、彼女が接した男性は刑務官だけだったのでしょう。監視し、命令するだけの男たちの中で、彼女の気持ちを真に受け止めてくれる人はいなかったはずです。
介護の真髄:寄り添う心と温かい眼差し
著名な介護研究者、山田先生(仮名)は、「介護とは、相手の心に寄り添い、その人らしさを尊重すること」だと述べています。竹下さんのような境遇の女性にとって、心を開放できる場所、受け入れてくれる存在はどれほど貴重なものだったでしょうか。
私は、彼女の言葉の裏に隠された孤独と渇望を感じていました。だからこそ、彼女の言葉に動揺することなく、温かい眼差しで接するように心がけました。
介護施設での食事
介護現場の未来:希望と尊厳を支えるために
介護の現場は、多くの課題を抱えています。しかし、そこで働く私たちには、入居者一人ひとりの人生に寄り添い、尊厳を守り、希望を灯す責任があります。竹下さんとの出会いは、私にとって介護の真髄を改めて問う貴重な経験となりました。
この経験を通して、私は介護の現場に希望を見出しています。それは、入居者の方々との心の触れ合い、そして、共に働く仲間たちとの協力です。これからも、介護の現場で働く一員として、入居者の方々の幸せを願い、より良いケアを提供できるよう努めていきたいと思います。