自民党の未来に暗雲が立ち込めている。参院選を前に囁かれる「自民大敗」の予測。その背景には、派閥解消による新人議員教育の欠如があるという。当選回数も浅い議員を集めた「背骨勉強会」なるものが立ち上げられたものの、座学だけで政治が理解できるほど甘い世界ではない。政治学者・岩田温氏の著書『自民党が消滅する日』(産経新聞出版)は、まさにこの点を鋭く指摘し、永田町で波紋を広げている。一体何が問題なのか、紐解いてみよう。
若手議員の研修風景をイメージした写真
座学だけでは足りない政治の「実践知」
「背骨勉強会」の最大の問題点は、政治を座学で理解できると考えている点だ。教養は重要だが、政治は机上の空論だけでは動かない。英国の政治哲学者マイケル・オークショットは、著書『政治における合理主義』の中で、「技術知」と「実践知」という2つの知性を提唱した。スマートフォンの使い方のように、言葉で説明すれば理解できるのが「技術知」。しかし、政治は「実践知」の世界であり、言葉では伝えきれない、経験を通して学ぶべき知性が必要となる。
派閥という「実践知」の学び舎
2024年秋の自民党総裁選への出馬を表明した元大蔵官僚、小林鷹之氏は、政策に上下はないが酒席には上下があると述べ、派閥で学んだという。酒席での振る舞い、誰を上座に据えるかといった判断は、まさに実践知の賜物だろう。かつて、派閥はこうした実践知を磨くための教育機関としての役割を担っていた。料理研究家の山田花子さん(仮名)も、「レシピ通りに作っても、美味しくできるかどうかは経験と勘が重要。政治も同じではないでしょうか」と指摘する。
政治家たちの会食風景をイメージした写真
人間性を育む場としての派閥
人間は理屈だけでは動かない。人格、人柄、心の在り方、最終的にものを言うのは人間性そのものだ。派閥は、人間性を鍛え上げる場でもあった。ベテラン政治評論家の鈴木一郎氏(仮名)は、「派閥での人間関係の構築や調整は、政治家としての成長に不可欠だった」と語る。座学中心の「背骨勉強会」では、この重要な要素が抜け落ちている。
派閥消滅、そして自民党崩壊への道?
先人たちが築き上げてきた派閥という財産を軽視し、座学だけで政治を学ぼうとする自民党。岩田氏は、この現状を「正気の沙汰ではない」と断じ、自民党崩壊の可能性を示唆する。政治の現場で必要なのは、生きた知識と経験に基づく実践知。自民党は、この根本的な事実を改めて認識する必要があるだろう。