【台北=田中靖人】台湾で来年1月11日に行われる総統選は、再選を目指す民主進歩党の蔡英文総統が世論調査の支持率で優位に立つ。香港情勢が追い風になっている上、中国国民党の韓国瑜高雄市長の失点や同党の混乱に助けられている形だ。ただ、蔡氏の支持層は若者が多く、陣営は世論調査と実際の投票に差が出る可能性があるとして、上滑りを警戒している。
国民党の韓氏は14日、一部海外メディアと会見し、自身を「親中派」とする見方は「誤解だ」と否定。「北京は香港での普通選挙を認めるべきだ」と踏み込んだ。ただ、馬英九前政権の「路線は変えない」とも述べ、中国との対話を重視する方針は維持した。国民党は中国との経済関係を支持につなげてきた経緯があり、対中姿勢での限界を示した形だ。
韓氏は対中姿勢以外でも今月、過去にマンション5戸の転売で利益を得ていたことが報道を機に判明した。自身を「庶民」の代弁者と位置付け、既得権益層への不満をあおる手法で支持を固めてきただけに、陣営は釈明に追われた。
加えて、総統選と同日の立法委員(国会議員に相当)選で党本部が13日に発表した比例名簿の当選「安全圏」に、中国との統一を主張する人物や呉敦義(ご・とんぎ)主席自身が入っていたことで批判が噴出。史上初めて名簿を作り直す騒ぎになった。来年1月の敗北による主席辞任を見越し、主席補欠選への出馬を表明する人物まで出ている。
一方の蔡氏は、6月の党内予備選で“引退”を勧告された「台湾独立」派団体との関係を修復し、独立派が支持する頼清徳前行政院長(60)を副総統候補に迎えることに成功。18日の集会では「1足す1は2より大きい」と足元の支持固めに自信を示した。
ただ、陣営の関係者は実際の投票行動を不安要素に挙げる。中国に厳しい姿勢を示す蔡氏への支持は、民主化後に生まれ「天然独(生まれながらの独立派)」と呼ばれる若年層が多い。大手テレビ局TVBSが15日に公表した世論調査によると、20~29歳の支持率は韓氏の14%に対し、蔡氏は68%に上る。だが、事前投票制度がなく戸籍地での投票が義務づけられていることもあり、若者の投票率は低くなる傾向がある。関係者は「若者が実際に投票してくれるかは分からず、世論調査だけでは安心できない」と話している。