中国の若者を蝕む「ネズミ人間」現象:過酷な競争社会が生んだ新たな生き方

現代中国社会において、若者の間で「ネズミ人間」と呼ばれるライフスタイルが広がりを見せています。これは、過酷な競争社会や経済的な不安定さから生まれた、新たな社会現象と言えるでしょう。この記事では、「ネズミ人間」の実態とその背景にある社会問題について深く掘り下げていきます。

「ネズミ人間」とは?:現代中国の若者の叫び

「ネズミ人間」とは、一日中ベッドで過ごし、ネットサーフィンやデリバリーで食事を済ませる、低活動的な生活を送る若者たちを指します。彼らは、SNSで自嘲的に自身を「ネズミ人間」と呼び、社会への不満や無力感を表現しています。

中国の若者がデリバリーで注文した食事の写真中国の若者がデリバリーで注文した食事の写真

この現象は、2021年頃に流行した「寝そべり族」の進化系とも言われています。「寝そべり族」は、必要最低限のことしかしないという消極的な生き方でしたが、「ネズミ人間」はさらに一歩進んで、社会との繋がりを断ち、引きこもる傾向が強い点が特徴です。

過酷な競争社会と経済不安:ネズミ人間の温床

中国経済の成長鈍化、高騰する生活費、そして若者の高い失業率。こうした厳しい現実が、「ネズミ人間」を生み出す温床となっています。都市部では16歳から24歳の若者の失業率が16.5%に達するなど、将来への不安を抱える若者が少なくありません。

ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)中国研究所の曽鋭生所長は、「ネズミ人間」現象は、過酷な競争社会における若者の反抗行動であると分析しています。彼らは、「996」と呼ばれる長時間労働や激しいプレッシャーに疲弊し、社会からドロップアウトすることで心の平安を求めているのです。

ネズミ人間の一日:デジタル社会の影

「ネズミ人間」の典型的な一日は、デリバリーで食事を済ませ、ベッドでネットサーフィンをするというものです。SNSには、彼らの日常を垣間見ることができる投稿が溢れています。例えば、あるユーザーは「低エネルギーのネズミ人間の1日。1人で食事、すべてデリバリー」と書き込み、注文した料理の写真をアップロードしています。

中には、自身の生活を正当化しようとするユーザーもいます。「エネルギーがなくなりそうな時はネズミ人間になる。それを人に理解してもらうのってそんなに難しい?」といった投稿からは、社会からの理解を求める彼らの心の叫びが聞こえてきます。

寝そべり族との違い:より深刻な社会からの孤立

デジタルマーケティング企業、デジタル・クルーのディレクター、オフィーニア・リアン氏は、「寝そべり族」と「ネズミ人間」の違いについて、「『寝そべり』とは、働いていないけれど自分の好きなことをしているという意味だったが、『ネズミ人間』は、社会で活躍する人たちとは正反対の存在になりたがっている」と指摘しています。つまり、「ネズミ人間」は、社会参加への意欲を完全に喪失している状態と言えるでしょう。

中国社会の未来:ネズミ人間現象が投げかける影

「ネズミ人間」現象は、現代中国社会が抱える深刻な問題を浮き彫りにしています。若者の将来への不安、過酷な競争社会、そして社会との断絶。これらの問題を解決しない限り、「ネズミ人間」は増加の一途を辿る可能性があります。

中国政府も対策に乗り出していますが、その効果は未知数です。若者が希望を持って未来を描ける社会を実現するために、さらなる取り組みが求められています。