ロッテルダムのボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館で、展示されていたマーク・ロスコの名画「グレー・オレンジ・オン・マルーン No.8」に、子どもの来館者が傷をつけてしまう痛ましい事件が発生しました。修復費用や責任の所在など、様々な憶測が飛び交う中、本記事では事件の詳細と今後の展望について詳しく解説します。
ロスコの名画に傷、一体何が?
2025年4月25日、オランダ・ロッテルダムの美術館で、アメリカの巨匠、マーク・ロスコの作品「グレー・オレンジ・オン・マルーン No.8」が、子どもの来館者によって損傷される事件が発生しました。推定価格81億円とも言われるこの名画、一体どのような状況で、そしてどれほどの損傷を受けてしまったのでしょうか?
美術館の広報担当者によると、子どもが大人の監督から離れたほんの一瞬の隙に、事件は起こったとのこと。幸いにも損傷は表面的なもので、下地のニスが塗られていない部分に小さな傷が見られる程度とのことです。美術館側は国内外の専門家の意見を聞きながら、修復に向けて慎重に検討を進めていると発表しています。
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現代美術の修復、その難しさ
現代美術、特にロスコのようなカラーフィールド・ペインティングは、一見シンプルな色のブロックで構成されているように見えますが、その修復は非常に複雑です。「ファイン・アート・レストレーション・カンパニー」の保存部門トップ、ソフィー・マカルーン氏によると、ニスが塗られていない現代の絵画は特に損傷を受けやすく、今回のロスコの作品のように、小さな傷でも作品の鑑賞体験に大きな影響を与える可能性があると指摘しています。
また、「プラウデン&スミス」のマーケティングマネージャー、ジョニー・ヘルム氏も、ロスコが使用した顔料や樹脂の混合物は非常に複雑で、修復は困難を極めるだろうと述べています。特に、ニスが塗られていないことで絵画が環境にさらされている状態であることが、修復作業をさらに難しくしている要因となっています。
修復専門家は現在、損傷状況の記録と共に、過去のロスコ作品修復の成功事例を研究していると考えられます。ヘルム氏は、「ロスコの作品は過去にも損傷を受けた事例があり、どうも運が悪いようだ」とコメントしています。 2012年にはロンドンのテート・モダンで展示されていたロスコの作品が故意に破壊される事件も発生しており、その修復には20万ポンドと18ヶ月もの時間を要しました。
修復費用は誰が負担?過去の事例と美術館の対応
美術品の損傷における保険の適用範囲は、通常、物理的な損失や損傷に関連する全てのリスクをカバーしており、子どもや来館者による偶発的な損傷も含まれます。しかし、特定の除外事項も存在するため、今回のケースで保険が適用されるかはまだ不明です。
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損傷が発生した場合、ギャラリーの保険会社は専門の損失調整人を派遣し、損傷状況の確認、原因究明、保存方法の評価などを行います。ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館は、今回の損傷の責任の所在についてはコメントを控えていますが、過去の事例では、展示作品の損傷について原因となった来館者に費用を請求したケースも存在します。2011年には、別の展示作品を誤って破損した観光客に修復費用を請求した事例が報告されています。
一方、子どもによる損傷に関しては、美術館や博物館によって対応方針は様々です。昨年、イスラエルの博物館で子供が古代の壺を壊してしまった際には、事故として扱われ、費用請求などは行われませんでした。
今回のロスコ作品損傷事件は、現代美術の保存と修復の難しさ、そして美術館における責任の所在など、多くの課題を提起しています。今後の修復の進展、そして美術館の対応に注目が集まります。