オーストリアのアルプス山脈に位置する小さな村の教会。その地下納骨堂で発見されたミイラが、今、世界中の注目を集めています。一体どのような人物で、なぜこれほどまでに良好な状態で保存されていたのでしょうか?今回は、この謎に包まれたミイラの物語と、最新の科学調査で明らかになった驚きの事実をご紹介します。
18世紀の聖職者、その死の真相
地元では、このミイラは18世紀に感染症で亡くなった聖職者だと伝えられてきました。死後数年を経て掘り起こされ、聖トーマス・アム・ブラーゼンシュタイン教会の地下納骨堂に安置されたと言われています。保存状態が極めて良好だったため、巡礼者たちはミイラに治癒の力があると信じ、崇拝の対象としていました。
地下納骨堂に安置されていたミイラ
毒殺?ミイラの体内に隠された秘密
20世紀に入り、X線調査によってミイラの体内にカプセル状の物体が発見されました。この発見は、聖職者が毒殺された可能性を示唆し、ミイラの謎はさらに深まりました。
最新科学調査で明らかになった驚きの事実
近年、地下納骨堂の改修工事中にミイラが再発見され、最先端の科学技術を用いた調査が行われました。CTスキャン、放射性炭素年代測定、骨と組織サンプルの化学分析など、様々な手法を駆使した結果、ミイラの身元や保存方法に関する新たな事実が明らかになりました。
予想外の発見!ミイラの体内に詰め込まれたものとは?
CTスキャンで最も驚くべき発見は、ミイラの腹部と骨盤腔にモミやトウヒの木片、リネン、麻、亜麻布などが詰め込まれていたことです。中には繊細な刺繍が施された布まで含まれていました。さらに、毒物学的分析からは塩化亜鉛の痕跡が検出されました。
独自の防腐処理法
これらの物質は直腸から挿入されたと推測され、木片と布が水分を吸収し、塩化亜鉛が乾燥効果と殺菌作用を発揮することで、ミイラが長期間保存されたと考えられています。この方法は、古代エジプトで行われていた遺体の開腹を伴うミイラ製作とは全く異なる、これまで知られていなかった方法です。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学医学教授のアンドレアス・ネルリッヒ氏によると、この方法は18世紀当時、遺体の輸送や安置のための保存方法として広く用いられていた可能性があるとのことです。
未解決の謎と今後の研究
ミイラの保存に塩化亜鉛が意図的に使用されたかどうかを断定するには、さらなる研究が必要です。また、ユーラック・リサーチのミイラ研究所のマルコ・サマデッリ氏によると、ミイラからは微量のヒ素も検出されており、今後の分析が待たれます。
このオーストリアの教会で発見されたミイラは、18世紀の埋葬文化や防腐処理技術を知る上で貴重な資料となるでしょう。今後の研究によって、さらに多くの謎が解明されることが期待されます。