トランプ大統領とメディア経営者の風刺漫画が掲載されなかったことでワシントン・ポストを辞職した風刺漫画家のアン・テルナエス氏が、ピューリッツァー賞を受賞した。
【画像】ボツになったテルナエス氏の風刺画。トランプ大統領や自社オーナーへの批判が込められていた
テルナエス氏が受賞したのはイラスト報道と解説部門で、「熟練さと創造力、そして報道機関を17年で去ることとなった恐れを知らぬ姿勢で、権力者や組織に対する鋭い風刺を届けた」と功績を称えられている。
テルナエス氏は2008年にワシントン・ポストに入社し、風刺漫画をめぐる意見の対立で2025年1月に辞職した。
辞職を発表した際に、経緯をサブスタックで次のように説明している。
「これまで、編集側から漫画に対するフィードバックをもらったり、建設的な議論をしたりしてきました。意見の相違が起きたこともあります。しかし、ペンを向けた相手が理由で漫画がボツになったことは一度もありませんでした。今回までは」
「もちろん、スケッチの段階で却下されたり、修正を求められたりしたことはありました。しかし風刺画になくてはならない視点が理由だったことは一度もありませんでした。これは状況を大きく変える出来事です……報道の自由にとって危険なことです」
ボツになった風刺画では、ワシントン・ポストのオーナーであるジェフ・ベゾス氏やMeta創業者のマーク・ザッカーバーグ氏、OpenAIのサム・アルトマンCEO、ロサンゼルス・タイムズオーナーのパトリック・スン・シオン氏、ウォルト・ディズニー社を象徴するミッキーマウスが、トランプ大統領とみられる巨大な人物にひざまずき、お金を差し出す様子が描かれていた。
ワシントン・ポストは2024年大統領選挙で、数十年振りに特定の候補者の支持表明をしないと発表した。
この方針転換に対し、「今回の選挙で支持表明をしないのは、実質的にトランプ氏を支持したのと同じだ」などの批判が相次ぎ、購読者が約25万人減ったほか、複数の社員が辞職した。
一方、Amazonやブルーオリジンの創設者であるベゾス氏はこの決定について「我々は正確でなければならない。そして、正確であると“信じてもらわなければ”ならない」と2024年10月の寄稿で説明している。
「つらい現実だが、私たちは第2の要件を満たせていない。多くの人々が、メディアは偏っていると考えている。この現実が見えていない人は、現実にほとんど注意を払っていないということだ。そして、現実に逆らう者は必ず敗れる」
このベゾス氏の姿勢について、トランプ氏は2025年3月、「彼はワシントン・ポストでまともな仕事をしようとしていると思う。これまでなかったことだ」と述べて歓迎している。
テルナエス氏は2001年にも風刺漫画部門でピューリッツァー賞を受賞。2022年にはイラスト報道と解説部門の最終候補者になっている。
2025年のピューリッツァー賞では、ワシントン・ポストは2024年に7月に発生したトランプ氏暗殺未遂事件の報道でニュース速報報道部門を受賞した。