公に目にする記者会見の裏で、ときに一歩も譲れぬ駆け引きが繰り広げられる外交の世界。その舞台裏が語られる機会は少ない。50歳の若さで大使に就任し、欧州・アフリカ大陸に知己が多い岡村善文・元経済協力開発機構(OECD)代表部大使に、40年以上に及ぶ外交官生活を振り返ってもらった。
■アフリカ流「カイゼン」
《日本が2013年6月、第5回アフリカ開発会議(TICAD)を横浜で開催する以前から、アフリカは日本の社会文化に特別な目を向けてきた》
1つの例が「カイゼン」です。トヨタが編み出した企業のマネジメント手法だと思われていますが、企業経営だけではない。私がコートジボワール大使(08~11年)だった頃も、アフリカ流の「カイゼン」があちこち根付いていました。
私が兼任大使をしていたニジェールの病院では、日本から伝授したわけでもないのに、院長が自分で「カイゼン」を見つけ、病院中で実践していた。
ゴミ箱(ポリバケツ)に蓋をすると、人々がゴミを捨ててくれない。蓋を外すと、カラスが来て荒らす。どうするかをみんなで「カイゼン」で考え、蓋に切れ目を入れて、カラスが来ないように蓋をしたままゴミが捨てられるようにしたのです。
また、病棟に家族や見舞客が来ても、患者がどこにいるか分からない。混乱を避けるため、大きな黒板を用意し、「名前と場所を書き込むようにした」と院長は得意になっていました。壁には「セイリ」「セイトン」など〝5つのS〟が貼り出してあった。
■「カイゼン研究所」まで設立
《エチオピアのメレス首相が1995年に政権に就いた後、ベトナムを訪問した》
エチオピアは91年まで社会主義国家だったため、国民が本気で働こうとしなかった。メレス首相が「ベトナムも社会主義なのに、どうしてみんな働き、こんなに経済発展しているのか」とベトナム人に聞くと、「カイゼン」のお陰だ、と言われたそうです。
メレス首相はさっそく、日本から大野健一・政策研究大学院大教授をエチオピアに招待し、「カイゼン」を伝授してもらった。また、「カイゼン」を国造りの基本に据えようと、首都アディスアベバに、5階建ての「国立カイゼン研究所」を設立しました。