経営者だった父が遺した一台のメルセデス・ベンツの相続をめぐり、30代の息子が直面したトラブル。故人の愛車という特別な感情、遺産分割の公平性、そして法的な手続きの複雑さが絡み合い、親族間で意見が対立します。最終的にどのような解決に至ったのでしょうか? 本記事では、弁護士法人山村法律事務所の飯冨稜也弁護士が同様のトラブルを避けるための重要ポイントの解説と、法的アドバイスをしていきます。
父が遺した愛車ベンツ、息子にとっての重み
相談者(30代・会社員)
会社経営者であった60代の父が亡くなった。
現預金は会社債務と清算する必要もあり、結局、めぼしい遺産は高級車で父がよく乗っていたベンツのみ(購入時の価格約2,000万円)。昔から大切に乗っていた父の愛車であるし、ステータスの一つでもあったかもしれない。
相続財産であるベンツの「背景」をよく知り、簡単にはベンツを手放したくないという30代の息子とほかの親族とのあいだには、この1台のベンツを巡って相続で争いが生まれてしまうことがあるでしょう。
形見として乗りたい息子 vs. 公平な遺産分割を求める親族
息子としては、いくら唯一の遺産であるからといって、このベンツは父が大切に乗っていたもの。父が亡くなったらすぐに処分してしまうというのは気が引けてしまい、そのままの形で残したい、形見として乗り続けたいと思うのも自然なことです。
一方、そうではないほかの親族にとっては、高級車なのだから財産的に価値は高い。遺産を承継できる身として、公平な形でその価値を分配してほしい。とはいっても、自分たちが乗ることもないから、手っ取り早く売却などをして、金銭の形で受け取れればいいじゃないかと思うものでしょう。
こうして、息子はベンツを手に入れたい、親族は売却処分したい、と相続の考え方が食い違ってしまいます。
自動車の価値はどのように評価されるか?
遺産分割においての自動車の評価は、どのように決まるのでしょうか。固定資産税から計算できるのか、買取業者による査定は役立つのかとさまざまな疑問が浮かぶところです。主に以下の4つのような算定方法が考えられます。
1.日本自動車査定協会の査定
日本自動車査定協会は、経済産業省と国土交通省の指導のもとで設立された一般財団法人です。全国52の支所を置き、査定をしてもらうことができます。
2.レッドブック(オートガイド自動車価格月報)の記載
レッドブックは、有限会社オートガイドが発行している月刊誌です。交通事故の裁判例でも比較の基準となることが多いです。
3.減価償却式による計算
新車価格からいままで使った分にあたる金額を差し引いて現在の価値とする評価方法です。安定した市場価格が計算しづらい特殊車両や高級車等に使われることがあります。少し例外的な方法ではあるかもしれません。
4.ディーラーや買取業者の査定・インターネット上の中古車市場価格
これらの業者やインターネット情報は、特に近年、裁判上の判断にも取り入れられることが多くあります。査定を入手しやすく、そのときの市場価格の動向を反映しているためです。また、売却をする場合は、売却金額をそのまま自動車の評価金額にもできます。