「相続税は富裕層だけが直面する問題」という認識は、もはや過去のものとなりつつあります。特に東京都内に実家を持つ一般家庭であっても、親から受け継いだ家が予想以上に高額な資産と評価され、結果として4000万円を超えるような巨額の相続税負担に直面するケースが増加しています。贅沢な暮らしをしているわけでもなく、ごく普通の家庭であるにもかかわらず、なぜこのような事態が起こり得るのでしょうか。本記事では、都心部の不動産価格高騰を背景に、富裕層ではない家族が「相続税4000万円超え」という厳しい現実を突きつけられるメカニズムを詳しく解説します。
都心部の「普通の家」が高額資産に?地価高騰が招く想定外の評価
東京都内では、一見するとごく一般的な、築数十年を経た古い戸建て住宅であっても、その立地によっては評価額が数千万円に達することが珍しくありません。特に23区内の人気のある居住エリアでは、たとえ60坪程度の土地であっても、相続税の算出基準となる「路線価(1平方メートル当たりの価格)」が100万円を超える地点も多く、その結果、土地の評価額だけで数千万円、場合によっては億単位となるケースも散見されます。
建物自体の価値は築年数の経過とともに減少しますが、土地の価値は高止まり、あるいは上昇を続ける傾向にあります。これにより、相続した実家が、相続税の基礎控除(3000万円+法定相続人1人につき600万円)を大幅に超える課税対象額となってしまう事態が発生するのです。国土交通省の統計によれば、東京圏の住宅地平均価格は、昭和50年(1平方メートル当たり7万2600円)以降、一時的な下落はあったものの、基本的には右肩上がりで上昇を続け、令和7年現在では28万5900円に達しています。このような地価の動向が、「普通の家」を持つ家庭にも高額な相続税の影を落としているのが現状です。
都内の住宅地にある一般的な戸建て家屋のイメージ。都心部の不動産価格高騰により、見た目は普通でも高額な相続税の対象となる実家を表す。
「小規模宅地等の特例」を利用しても高額課税は避けられない現実
自宅を相続する際に、多くの納税者が期待するのが「小規模宅地等の課税価格の計算の特例」です。この制度は、相続した自宅の土地評価額を最大80%減額できる画期的なものであり、一定の要件を満たせば、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。そのため、「この特例があるのだから、相続税が4000万円を超えることなどあり得ない」と考える方も少なくありません。
しかし、元の土地評価額が極めて高額な場合、この特例を適用してもなお、課税額が大きくなる可能性があります。例えば、元の土地評価額が2億円である場合、80%減額されても評価額は4000万円となります。仮に兄弟2人でこの実家を相続する場合、基礎控除額は4200万円(3000万円+600万円×2人分)ですが、もし故人が現金、株式、生命保険金といった他の遺産をわずかでも残していた場合、その合計額が容易に基礎控除を超過してしまいます。相続税率は、課税対象価格が3000万円を超えると20%以上となるため、最終的に「都内に実家があるだけで4000万円以上の相続税負担」という、想像をはるかに超える厳しい現実に直面することになるのです。
結論
東京都内の不動産価格高騰は、もはや一部の富裕層だけの問題ではなく、ごく一般的な家庭の相続にも深刻な影響を与えています。「普通の家」と思われている実家が、相続時には思いがけないほどの高額な資産と評価され、結果として巨額の相続税負担を招くリスクがあることを理解しておくことが重要です。税制優遇措置があるとはいえ、その効果にも限界があるため、相続を控えている、あるいは将来的に都内の不動産を相続する可能性のある方々は、専門家への相談を含め、事前の情報収集と対策を講じる必要性が高まっています。
参照文献
- Financial Field
- 国土交通省 土地・建設産業局 土地情報提供システム