ロシアの侵攻を受けるウクライナが、外交攻勢を続けている。大きな転機となったのは、4月末に米国との間で締結した天然資源の共同開発をめぐる協定だ。
それまではロシアと停戦するようウクライナ側に一方的に圧力をかける姿勢だった米国が、締結条件で大幅に譲歩し、ウクライナの発展につながる形式に変更された。それまで提示されていた条件では、ウクライナは停戦後の経済発展の道もふさがれかねない状況だった。
背景には、成果を急ぐ米国のトランプ大統領のロシアに対する姿勢の変化や、ウクライナのゼレンスキー大統領の巧みな働きかけがあったが、さらにそのような環境を生み出したのは、ロシアのプーチン政権の甘い〝読み〟と〝油断〟があったと筆者はみる。きっかけとなったのは、ゼレンスキー氏の南アフリカ訪問だった。
〝ゼレンスキー氏は歓迎されていない〟
「明らかなのは、ゼレンスキーは西側の操り人形だということだ。北大西洋条約機構(NATO)はBRICs(ブラジル、ロシア、中国、インド、南ア)、なかんずくロシアとの闘いのために彼を利用している。彼はこの地で歓迎されていない。速やかに帰国させるべきだ」
「彼は本物の大統領ではなく、独裁者だ。なぜならば、選挙が行われていないからだ。ウクライナで選挙を実施せよ。そうすれば、本当の指導者が現れる。そしてゼレンスキーは、国際司法裁判所に連れていかれなくてはならない」
4月24日、国営ロシア通信は、ある南アの共産主義政党のリーダーの声を延々と報じていた。
南アで政治的影響力が極めて小さいとみられる極左指導者の言葉を引用してでも南ア国内の状況を報じようとするロシアの国営メディアの姿勢には、「南アでゼレンスキーは歓迎されていない」とのイメージをロシア国内で作り出そうとする意図が強く感じられた。
ゼレンスキー氏は23日深夜に南アに到着し、24日にはラマポーザ大統領との会談に臨む予定だった。そしてその24日に、ロシアはウクライナの首都キーウなどへの大規模空爆に踏み切った。過去数カ月で最大規模の攻撃で、多数の死傷者が発生。ゼレンスキー氏は訪問日程を大幅に短縮し、緊急帰国を余儀なくされた。