「成長と統合」キム・ヤンヒ共同代表インタビュー 「内外の三重危機に直面する韓国 具体的な国益設定し『トランプの不確実性』に備えよ」
米国のドナルド・トランプ大統領が「関税戦争」の緊張を高めている。トランプ大統領は2025年5月5日(現地時間)、ホワイトハウスで「これから2週間以内に医薬品の関税を発表する」と脅した。4月2日に185カ国を対象として、ほぼすべての輸入品に「10%の一律関税+最大50%の相互関税」を課すことを発表してから約1カ月後だ。韓国は内乱が終息せず混乱しているが、国外では「トランプ発の関税戦争」が起き、内外で不確実性が高まっている。
■「残酷なトランプ関税、標的は中国」
通商の専門家で、野党「共に民主党」のイ・ジェミョン大統領候補の政策諮問グループ「成長と統合」の共同代表を務める大邱大学のキム・ヤンヒ教授(経済金融通商学)は、4月29日と5月7日の2度にわたりハンギョレ21のインタビューに応じ、今は「最大の危機」だと警告した。多くの懸念が示されているにもかかわらず米国との協議を急ぎ、結局は大統領選への出馬を表明(11日に出馬取りやめ)したハン・ドクス前大統領権限代行については「公職を私有化した人物」と評した。
-米国が4月の時点で史上最大の貿易赤字を記録したにもかかわらず、トランプ発の関税戦争が終わる兆しが見えない。
「米国の力は衰えたと言えども、まだトランプの持つ力を過小評価してはならない。ホワイトハウスがX(旧ツイッター)で公開した関税対象国は185カ国。これは世界貿易機関(WTO)の加盟国(166カ国)より多く、国連加盟国(193カ国)との差もわずか8カ国だ。南スーダンのような最貧国からオーストラリアの無人島『ハード島とマクドナルド諸島』に至るまで関税を課した。無慈悲で残酷だ。なぜこのようなことをしたのか。中国による第三国を通じた迂回(うかい)輸出を防ぐ方法を総動員することを意図したものだ。究極の標的は中国だ。ひとまず、あらゆる国に大きな石を載せておいて、中国と別れるかどうか対応を見て、石を降ろしてやるというやり方だ。それができる国は世界で米国だけだ。米国は、中国がベトナムに迂回させて米国に輸出したことを知っているため、ベトナムに41%もの関税を課した。ベトナムは迂回輸出を徹底して防ぐ、原産地をはっきりさせるから関税を撤回してほしいと言っている」
-米国の動きの特徴は。
「3つある。類例のない全面戦争、従来の多国間貿易秩序の転覆を試みていること、トランプ政権の関税措置が右往左往していることによる不確実性の高さだ。このように無謀な全面戦争を繰り広げるというのは、それだけトランプの危機意識が強いことを意味するものでもある。彼は、従来の見せかけだけの自由貿易基調が中国を助け、米国の製造業を駄目にしたという問題意識が非常に強い。それを是正するためには、高強度な型破りの措置が必要だというわけだ。トランプにとって自由貿易は悪であり、貿易赤字はあってはならないものだ。だから、戦後に米国が自ら作り出した多国間貿易秩序を転覆させようとしている。とりわけ相互関税は、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)の最恵国待遇原則に反する可能性が高い。そのため米国は、国際規範違反の可能性を回避するため、安全保障を大義名分として掲げている。そのうえ、ただでさえ政策論理がぜい弱であるにもかかわらず、頻繁に言うことが変わるため関税措置の不確実性を高めた。5月5日(現地時間)にも輸入映画に100%の関税を課すと述べたものの、反発にあって撤回した。こうなると現実では動かない」
-関税の適用は90日猶予されている。90日後にはどうなると考えるか。
「相互関税で国債金利が暴騰(国債価格が暴落)したから、90日の猶予が終わっても以前の水準の相互関税を強行するのは容易ではないだろう。米国においては、10年満期の国債の金利は住宅担保融資や企業融資などの金利の基準となる。とりわけ国債価格の変動は、米国の代表的な退職者年金制度である401(k)の収益率にも直結する。国債価格の下落は、401(k)の平均収益率が3月の最終週に2.1%下落するという結果を招いた。米国の50代以上のリタイア予定者にとって、401(k)は老後に備えるための非常に重要な資産であり、退職者の重要な収入源だ。これは逆鱗(げきりん)に触れるようなものだ。現在の米国債、株価、ドルの『トリプル安』は、関税措置の不確実性にとどまらず、米国そのものに対する不信が膨らんでいることを意味するものだ。だから、相互関税などは完全には元に戻せないが、事実上あれこれ例外規定を作ったりして形骸化させる方向に行くのではないかと予想する。このようなことから、トランプの関税措置は大きな穴があちこちに開いている『スイスチーズ』に例えられている」
■「関税戦争、長期化すれば誰もが敗者」
-米国政府の中ではどのようなことが起こっているのか。
「『90日間の猶予』が決まった過程をみてみよう。ホワイトハウスにはスコット・ベッセント財務長官、ハワード・ラトニック商務長官のように、ウォール街出身の新自由主義者で、金融指標に敏感に反応する人々がいる。もう一方の側にはJ・D・バンス副大統領、ピーター・ナバロ貿易・製造業担当大統領顧問ら「MAGA(米国を再び偉大に)主義者」がいて、激しい権力争いが起きている。しばらくはMAGA主義者たちに力が集中していた。そんな中、4月9日に相互関税の発効で国債金利が急騰したことで、ベッセント長官とラトニック長官が、ナバロ顧問がちょうどホワイトハウスを不在にしていることを確認したうえで大統領のもとに駆けつけ、金融市場のパニックを伝えた。ついに大統領の説得に成功したが、大統領の心変わりを心配し、『90日猶予』をXで発表するまで見守った。このことを契機としてトランプはベッセント長官に関税交渉の全権を任せるようになり、そのため彼が日本と韓国も担当しているのだ。これらのことが関税措置の政策論理と作動の可能性の壁として存在する」
-肝心の中国は余裕の構えだ。
「トランプは焦っている。中国は第1期トランプ政権時代に米中貿易戦争を経験したことで、徐々に輸出市場を多角化して対米依存を弱めてきた。中国の欲している先端製品は、いずれにしろ輸出規制に阻まれているため、高関税にも耐えられる。米国の高関税はむしろ中国の技術の自立を促進しうる。政治体制の面でも、中国の方が米国に比べ耐えるのに有利だ。米中双方は電話をしただのしていないだの、真実をめぐってやりあっていたが、ついにスイスで初会合を持つことになった。これについて中国は、米国にせがまれて仕方なく『接触』してやるのだと言い、会合の意味を下げている。米国の立場からすれば中国との敵対関係を続けるだろうが、同盟国や友好国が米中のどちらにつくかが問題だ。トランプ式の全面戦争は、友好国にも米国と別れる決心をさせている。果ては、安保問題もそうだ。冷静にみて、時間は米国の味方ではない。しかし関税戦争が長期化すると、米国だけでなく誰もが敗者となる」
-4月24日(現地時間)に韓米の財務・通商のトップが会い、7月8日までに関税廃止に向けた「7月パッケージ」を発表することを決めた。
「何をしてきたのか。韓国側から60人も行ったなら、米国の要求をよく聞いてくるべきだった。しかし、韓国のことばかり主張してきたようだ。ハン・ドクス権限代行は、どこの国の首相なのか疑わしいくらいに、米国に惜しみなく与えることを申し出た。あげくに彼は、試合で例えれば厳しい審判の役割を捨てて競技場に飛び出し、唐突に選手になった。結果的に彼は、私益のために公職を利用したのだ。公職者として無能と無責任の極致だ」
-日本の交渉はどう評価するか。
「韓国と似たような立場にある日本の対応は、韓国とは対照的だ。第一に、日本は最初の会談で、この交渉は国際規範を順守すべきだと強調し、米国側の相互関税の計算方式は非合理的だと迫るなど、日本側の名目と原則を表明した。第二に、日本は今回の訪米の目的が米国の意図の把握であることを明確にした。第三に、遅延戦略だ。90日の猶予期間内の妥結を標榜してはいるものの、実際には遅延の可能性が高い。2回目の米日交渉では、日本が意外に強硬な立場を守ったため、両者は平行線をたどった。7月に参議院選挙を控えている日本は、米国側に簡単には譲歩できない状況にあるため、交渉は難航が予想される。さらに日本の財務相は、国債も交渉カードとして念頭に置いていると述べている。実は、相互関税の90日猶予を引き出した米国債の大量投げ売りをおこなったのは、中国ではなく日本だ。韓国も日本の国債という切り札のような『決定的な一打』を準備すべきだ」
■「90日後にどうなるかはトランプにも分からない」
-今後どうすべきか。
「米国内の動きが最大の変数となる。特に国債金利の変動とインフレ動向に対するトランプ支持者の反応を見るべきだ。彼らでさえ関税戦争に反感を示しはじめている。そのため的は動いている。米国の関税措置は確定していない。90日後にどうなるかはトランプも断言できない。韓国が備えるべきは関税戦争だけではない。トランプに象徴されるまったく異なる世界に長期的に備えなければならない。韓国は今、三重の危機に直面している。まず、対外環境の危機だ。戦後、米国が差しかけてくれていた『安保』と『市場』という2つの傘のことを定数と考えてきたが、今や変数となった。国内の政治と経済も危機だ。12・3戒厳が招いた憲政民主主義の危機はまだ終わっていない。従来の経済成長モデルは構造的な限界に直面している。したがって、今は抽象的な国益ではなく、非常に具体的に国益を定義したうえで、それを混沌と激変の時代を切り抜けるための羅針盤とすべきだ。
どのようにすべきか。韓国の経済安保的アイデンティティーから出発してみよう。韓国とはどんな国なのか。製造業大国であり、輸出大国であり、世界13位の経済大国だ。今回のことでも確認したように民主主義大国であり、自主国防の潜在力を有しており、文化大国へと生まれ変わりつつある中堅国だ。一方で韓国経済は対外依存が強く、製造エコシステムの地盤沈下が深刻だ。地政学的な断層の上に位置し安全保障の危機が常態化しているのに外交力は脆弱だという弱点を抱えている。したがって、韓国は経済安保的アイデンティティーを基盤とする強みを最大化し、弱点を最小化することが国益となる。それこそが、他ならぬ韓国型経済安保戦略の目標だ。関税戦争にも、このような大きな青写真の下で対応すべきだ。気を引き締めなければならない」
イム・ジソン、ソン・ゴウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )