世界トップの造船力を背景に増強を続ける中国の海軍力に対抗するため、トランプ米政権は日韓両国に対し、衰退した自国の造船業の復興に向けた協力を求めている。造船業と海軍力を巡る日米韓3カ国の事情について、日韓の防衛産業などに詳しいキヤノングローバル戦略研究所・伊藤弘太郎主任研究員に聞いた。【聞き手・米村耕一】
米国が日韓に造船で協力を求めてくるのは、生産力で圧倒する中国に負けてしまっているからだ。現時点での総合的な米海軍の戦力は中国海軍を上回るが、これから中国が新造艦艇を投入していくことで、近い将来には米国の能力を超えるものになっていく可能性がある。それを懸念して米海軍は建造計画を作っているが、造船能力が追いついていない。
一方、韓国は防衛産業に強い財閥系ハンファグループの一員で造船大手、ハンファオーシャンが昨年6月に、米国内の造船所を買収した。ハンファはグループとして米国の防衛産業市場進出に意欲を持っており、造船をその足がかりとしたい考えだ。そこが日本企業とは大きく違う。
日本の防衛産業としての造船は、現時点では海上自衛隊の需要を支えることで精いっぱいという状況にある。また造船設備の収容能力や熟練工の不足という問題は多かれ少なかれ日本や韓国も抱えている。日韓共に、関税に関する対米協議において造船での協力がどれだけ交渉材料となるかは不透明だ。
ただ、「トランプ関税」とは別の問題として、西太平洋・インド洋を担当する米海軍第7艦隊の力が、米国の造船能力の問題によって相対的に弱くなることは日本、そして韓国にとっても困る問題だ。インド洋から東シナ海に至るシーレーン(海上交通路)において米海軍がにらみを利かせることの重要性は、韓国でもようやく理解が広がり始めている。
米国がまず求めているのは、西海岸の造船業への投資などだ。しかし、中長期的には日韓そしてオーストラリアなどで役割を分担し、部品を供給しあうなどの多国間協力で米国の造船業を支えるといった戦略的な構想が必要な時期に来ている。