チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世が、その伝統的な「輪廻転生」に基づいた後継者の選定方法を改めて明確にしました。この明言は、ダライ・ラマ法王の影響力拡大を警戒する中国政府によるチベット地域への弾圧が今後さらに強まる可能性を示唆しています。実際に、最近では中国政府の関与が強く疑われるチベット仏教の高僧の不審死事件が発生しており、国際社会からも懸念の声が上がっています。
チベット高僧トゥルク・フンカル・ドルジェ師の不審死事件
インド北部ダラムサラに拠点を置くチベット亡命政府などが発表した情報によると、著名なチベット仏教指導者であるトゥルク・フンカル・ドルジェ師(56歳)が今年3月25日、ベトナム最大の都市ホーチミンのホテルで、現地警察と中国の諜報員によって身柄を拘束されました。その後、ドルジェ師は3日後の3月28日に現地の公安事務所へ引き渡され、その日のうちに死亡が確認されました。この事件は、チベットを取り巻く厳しい状況を改めて浮き彫りにしています。
文化・言語保護活動と中国当局との対立
トゥルク・フンカル・ドルジェ師は、中国青海省ゴロク・チベット族自治州を活動拠点とし、チベットの伝統的な言語や文化の保存活動に熱心に取り組んできました。これらの活動は、中国政府が進めるチベット民族の同化政策に対する静かな抵抗とみなされていました。
昨年には、中国政府が一方的に認定したチベット仏教ナンバー2であるパンチェン・ラマ11世を自身の僧院に受け入れるよう地元当局から指示されましたが、ドルジェ師はこの要求を拒否しました。その結果、同年8月には当局による取り調べを受け、指紋の提出を強要されるなど、圧力を受けました。ベトナムで潜伏生活を始めたのは、この取り調べから約1カ月後のことでした。
チベット仏教指導者トゥルク・フンカル・ドルジェ師の肖像写真
ベトナムでの拘束から死亡、そして遺体の火葬
ホーチミンのホテルで拘束されたドルジェ師は、その後ベトナム当局によって中国側へ引き渡されました。そして引き渡し当日に死亡するという極めて短期間での出来事となりました。
中国当局者は僧院の関係者に対しドルジェ師の死亡を伝えましたが、遺体の返還や詳細な死因に関する情報は一切提供しませんでした。さらに、遺体は遺族の同意を得ることなく、ホーチミンで火葬されたとされています。これらの当局の対応は、不審死への疑念を一層深めるものとなっています。
チベット仏教高僧の不審死に抗議する人々、在インド・ベトナム大使館前
チベット亡命政府の反応と国際社会への訴え
この一連の出来事に対し、チベット亡命政府は強い懸念を示しています。亡命政府のペンパ・ツェリン首相は時事通信の取材に応じ、「(ドルジェ師は)高齢ではなく健康だった。今回の件は、中国による国境を越えた弾圧の典型例が頭に浮かぶ」と述べ、不審死への強い疑念を表明しました。
亡命政府は現在、トゥルク・フンカル・ドルジェ師の不審死について、中国とベトナム両国に対して明確な説明を求めるとともに、独立した第三者機関による調査を実施するよう強く求めています。ダライ・ラマ法王の後継者選定問題が注目される中で起きたこの高僧の不審死事件は、チベットにおける人権状況と中国政府の圧力の実態を改めて世界に突きつけるものとなっています。