老後資金を増やそうと新NISAで一括投資した矢先、大暴落に直面した佐藤誠一さん(仮名)。当時、スマホの株価アプリには真っ赤な数字が映っていました。「胃が痛くて眠れない……」そんな日々を過ごしたという佐藤さん。豊かな老後のために始めたはずの投資が、なぜそんな事態になってしまったのでしょうか。本稿では、特に50代後半以上の人が知っておくべき「新NISAで後悔しない」ための心得と損切りの考え方などを、FPの青山創星氏が詳しくお伝えします。
「今日も下がった…」毎晩の株価チェックが胃痛を招く日々
「これ以上株価が下がったら、もう給料1ヵ月分以上が消えてしまう……」
会社の後輩に勧められて新NISAを始めた佐藤誠一さん(58歳・仮名)は、スマホの取引アプリに表示された真っ赤な数字を見つめ、深いため息をつきました。
年収780万円、貯金1,200万円の佐藤さん。残りの会社生活はあと数年。住宅ローンは900万円残っており、長男は私立大学3年生でまだ教育費がかかります。
「老後2,000万円問題」のニュースが流れて以来、定年後の生活に不安を感じていた佐藤さんは、新NISAに飛びつきました。会社の後輩から「新NISAは絶対やったほうがいい」と言われ、「やらないと損する」という言葉が頭から離れなくなってしまったのです。
「2倍になった」という後輩の言葉に踊らされた240万円の悲劇
こうして、佐藤さんは昨年5月から新NISAのつみたて投資枠で毎月10万円の世界株インデックスファンドへの積立を開始。これは堅実な決断でした。しかし問題は、その半年後の行動でした。
「会社の後輩から『米国株取引も始めていて、約1年で2倍になった』という話を聞いて……」
老後資金を少しでも増やしたいという焦りから、佐藤さんは新NISAの成長投資枠いっぱいの240万円で米国半導体株に一括投資。後輩は「アメリカの新政権誕生で先行きは不透明になるので慎重に」と忠告してくれましたが、佐藤さんの耳には入りませんでした。
結果は惨憺たるものでした。米国株は購入後しばらくして下落の連続。さらに世界経済の先行き不安から世界株も大幅下落。佐藤さんの投資額は大きく目減りしました。
スマホの株価アプリを開くたびに胃が痛くなる日々。眠れぬ夜が続きました。妻には『会社の先輩たちも皆やっているから』と軽く伝えただけで、詳しくは話していなかったといいます。