季節や天候に左右されず、安定的に農産品を供給できる技術として、国が普及を後押ししてきた植物工場ビジネスの減速が鮮明になってきた。電気代の高騰に伴う収益力の低下が背景にあり、国内最大級のレタスの植物工場を運営していた「スプレッド」(京都市)が清算される見通しとなったほか、大手企業の撤退も相次ぐ。国内工場の6割が赤字経営に陥っているとの調査もあり、新たな事業モデルが求められる。(経済部 梶多恵子)
スプレッドは京都、静岡両府県に、LED(発光ダイオード)照明や蛍光灯の人工光を使った3工場を展開。2006年の創業以来、累計1億食のレタスを販売した。業界の先進事例として注目されていたが、昨年8月、京都地裁に民事再生法の適用を申請した。
帝国データバンクによると、工場建設や運転資金に関わる借り入れが膨らんだほか、電気代高騰で運営コストがかさんだ。過剰生産による廃棄損も重なり、負債額(23年9月期)は年間売上高の約2倍の37億円に上った。スプレッドの担当者は取材に「早ければ来年6月末までに清算したい」としている。
3工場のうち、京都府木津川市の工場は6月1日付で東急不動産グループに譲渡する。最も大きい静岡県の工場も中部電力子会社が主体となって事業を継続するが、稼働時期が最も早く老朽化した同府亀岡市の工場は閉鎖された。
人工光型の植物工場の経営は厳しさを増している。日本施設園芸協会(東京)の24年度の調査によると、回答した全国41施設の約6割が「赤字」と答え、「黒字」としたのは15%にとどまった。将来性を見込んで異業種から参入した大手企業の撤退も目立つ。16年の東芝に続き、オリックスも23年に手を引いた。
日本総合研究所の三輪泰史氏は「植物工場は原子力発電所に支えられた安価な電力を使うことで、低コストの露地物などと競う事業モデルだが、電気代高騰でその前提が崩れた」と指摘する。
国が推進
植物工場は、政府が施設整備の補助金など150億円規模の支援策を導入した09年度から普及が加速した。省電力・長寿命で、成長や品種に応じて光を調節できるLED照明の技術が進歩したことも追い風になり、人工光型工場は09年当初の34か所から今年2月には191か所に増えた。