激論
A「今後、英国かロシアが世界の盟主となるであろう。英国は悪賢くて強勢、かつどん欲である。ロシアは沈着で強大、秩序ある国だから、将来的に人望はロシアに集まることになろう。わが国は信用のおける隣国のロシアと兄弟になるべし。そしてその力を借りて富国強兵をはかれば、英国が攻め寄せても壊滅することなく、強国への道をひらくことができよう」
B「ロシアはすきあらば満州や支那に手を出そうとし、インドにまで迫ろうとしている。英国は北海道や樺太をうかがいつつ、フランスと組んで朝鮮と台湾をねらっている。一方、米国は中国進出に代えて目を神州(日本)に向けている。そんななか、油断のならぬロシアへの接近は国の独立を危うくしよう」
A「日本が独立を維持するには、満州や山丹近辺(中国東北部の黒竜江=アムール川下流域)や朝鮮半島に加えて米国大陸やインドにも領土をもたなければならない。とても無理な相談だ。だからロシアの『弟』となるべきなのだ」
B「これまた意外な! 満州や朝鮮半島などへの進出については僕も考えたこともあったが、偏狭な愚論だ。いまは士民の貴賤を問わず賢才を登用して航海術をきわめ、海軍を起こして国防体制を整えるとともに、四海の隣国、また世界を相手に、先方から強制されるのではなく、対等な外交関係を結んで和親の条約を結び、そのもとで通商・貿易を盛んにして利を得る。それこそが国威奮興・材俊振起-つまり神州独立の道ではないか!」
一致と相違
吉田松陰と橋本左内の考えには共通するところが多々ある。当時の学校制度は画一的な人材しかうまないとして不満をもち、英雄や賢才を輩出するような改革を求めていたことや独立論は異にしていても、「開国」(松陰は「航海雄略」と呼んでいた)という根本では一致していたこと-などはその一例である。