【ワシントン=黒瀬悦成】韓国が日本との包括的軍事情報保護協定(GSOMIA)の破棄を凍結し、失効が回避されたことに関し、トランプ米政権や専門家の間では「歓迎する」(ポンペオ国務長官)との声が上がる一方、今回の問題が日米韓の連携体制に重大な傷痕を残したとの意見も少なくない。
米中央情報局(CIA)で朝鮮半島情勢の分析官を務めた、政策研究機関「ヘリテージ財団」のブルース・クリングナー上級研究員は、協定の失効回避について「日韓と米国に前向きかつ賢明な外交を実施する機会を与えるもので、歓迎できる」と評価した上で、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権に協定破棄の決断を翻意させたトランプ政権の働きかけは「称賛に値する」とした。
ただ、米政権の取り組みは「(立ち上がりが)遅く、手荒だった」とも指摘。本来であれば、文政権による慰安婦問題をめぐる日韓合意に基づく「和解・癒やし財団」の解散決定(昨年11月)やいわゆる徴用工訴訟の最高裁判決(同10月)の時点から、水面下で活発な外交活動を展開しておくべきだったとも批判した。
一方、アーミテージ元国務副長官とジョージタウン大のビクター・チャ教授(元国家安全保障会議=NSC=アジア部長)は23日付の米紙ワシントン・ポストに連名で寄稿し、文政権が協定破棄を凍結したことを一応は評価しつつ、一連の行動は「日米韓の間で蓄積された信頼関係を傷つけた」と非難した。
両氏は、GSOMIAの問題を使って米政権を日韓の経済と歴史をめぐる対立に巻き込もうとした文政権の手口は「同盟関係の悪用行為だ」と切り捨てた。
また、文政権が協定破棄決定で日韓を脅した振る舞いは、日米韓が北朝鮮の核実験やミサイル発射に対応する能力を低下させるだけでなく、韓国と日米との安全保障上の利害が切り離され、同盟崩壊につながる恐れがあると警告した。
特に、安倍晋三首相が北朝鮮の核を「日本の存立に関わる脅威」と位置づけているのに対し、来年に総選挙を控える文大統領は脅威を重視しない傾向にあるとし、懸念を示した。