ニューサム知事、トランプ氏流SNS戦略で共和党に挑む:米政治の新たな波紋

アメリカ・カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、ソーシャルメディア上で独特の戦略を展開し、注目を集めています。その手法は、時に批判の的となるドナルド・トランプ前大統領の投稿スタイルを模倣したものであり、共和党支持者からの反発を招きながらも、民主党支持層からの支持と大きなエンゲージメントを獲得しています。この革新的なアプローチは、今後の米国政治におけるコミュニケーションのあり方に新たな問いを投げかけています。

トランプ氏そっくりのSNS投稿:その内容と波紋

ニューサム知事のX(旧Twitter)アカウントや知事広報室のアカウントでは、全て大文字の文章、荒々しい言葉遣い、AI生成画像、そして相手をあだ名で揶揄する投稿が頻繁に見られます。これは、長年トランプ氏が自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」などで実践してきたスタイルと酷似しています。トランプ氏は、気に入らない相手を激しい言葉で罵倒したり、時にはアメリカ大統領としては異例とも言える陰謀論を拡散したりしてきました。

カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム氏とドナルド・トランプ元大統領の肖像写真カリフォルニア州知事ギャビン・ニューサム氏とドナルド・トランプ元大統領の肖像写真

しかし、民主党に所属するニューサム知事の一連の投稿は、トランプ支持者や保守派の神経を逆撫でしています。FOXニュースの司会者ダナ・ペリノ氏は「馬鹿みたいに見えるからやめて」と述べ、トレース・ギャラガー氏も「子どもじみて見えます。アメリカ最大の州の知事なんですよ? 何をしているんですか?」と厳しく批判しています。これらの批判は、トランプ氏の同様の言動が共和党からほとんど批判されなかった事実と対照的であり、メディアにおける「セインウォッシング(問題のある発言や思想を正常であるかのように扱うこと)」の基準を浮き彫りにしています。

長年の「トランプ流」とニューサム氏の反論

トランプ氏に批判的な立場を取る人々は、メディアがトランプ氏の過激な言葉遣いを“正常化”してきたと非難してきました。ニューサム陣営のこの新戦略は、まさにその「正常化」された状況に一石を投じるものです。

ニューサム知事自身も、8月にロサンゼルスで開いた記者会見で自身の投稿に対する批判に対し反論しています。「私の投稿に問題があるのなら、大統領の方がもっと問題だと懸念すべきだ」と述べ、「なぜ彼のツイートは何年もの間当たり前のように扱われ、同じような精査や注意を受けてこなかったのか、という点だと思います」と、ダブルスタンダード(二重基準)を指摘しました。この発言は、自身の行為を正当化するだけでなく、長らく見過ごされてきたトランプ氏のコミュニケーションスタイルに対するメディアの姿勢を批判する意図が込められています。

ニューサム知事や知事広報室のアカウントは、テキサス州の選挙区再編問題でトランプ氏を攻撃したり、トランプ氏風に相手にあだ名をつけて攻撃したり、意図的に名前を間違えたりするなど、露骨にトランプ氏を揶揄しています。また、2028年共和党大統領候補と目されるヴァンス副大統領候補の顔をパリ五輪ブレイキン選手の写真に合成したり、ニューサム氏の顔をラシュモア山に刻んだりするなど、トランプ氏が得意とするAIを使った誇張された画像の投稿も活発に行っています。

民主党の「攻め」の戦略:支持層の獲得と影響力拡大

この戦略は、伝播力という点では大きな成功を収めています。知事広報室のXアカウント「@GovPressOffice」は、2023年8月1日以降、フォロワーが25万人以上増加し、2億2500万以上のインプレッションと150万以上のプロフィール閲覧数を記録しました。

共和党ストラテジストのサラ・ロングウェル氏は、このニューサム知事の新戦略について「ニューサム氏の投稿はバカバカしいものです。しかし、それを不快に感じるのは、党派心にのために許容してきたものを鏡のように映してるからです。トランプ氏の発言がどれほど非常識でも受け入れきた現実を思い知らせ、揺さぶるのです」と分析しています。

ウォール・ストリート・ジャーナルの最新調査で民主党の支持率が過去30年で最低を記録する中、民主党支持者たちは、選挙で勝利するために強硬にトランプ政権と戦う姿勢を自党の政治家に求めるようになっています。ニューサム知事もMeidasTouchのインタビューで「私たちは勝利に狙いを定める必要があります。徹底的に対抗しなければならない」と述べ、「守りではなく、攻めの姿勢が必要です。私たちが物語を動かし、改革を推し進め、話題をリードし、四方八方から響かせるのです」と、この戦略の重要性を強調しています。この大胆なアプローチは、民主党が直面する課題に対する新たな解決策として注目されており、今後の米国政治の動向を左右する可能性を秘めています。

結論

ギャビン・ニューサム知事のトランプ氏を模倣したSNS戦略は、単なる挑発行動に留まらず、計算された政治的メッセージとメディア戦略の一環として機能しています。共和党支持者からの批判を逆手に取り、メディアのダブルスタンダードを浮き彫りにしながら、民主党支持層の熱狂とエンゲージメントを獲得することに成功しています。この「攻め」の姿勢は、次期大統領選挙を控える米国政治において、特に民主党がどのように自らの存在感を示し、保守派の勢力に対抗していくかを示す重要な試金石となるでしょう。ニューサム知事の今後の発信と、それに伴う政治的波紋は、引き続き米国政治の主要な焦点の一つであり続けると予想されます。

参考文献