公に目にする記者会見の裏で、ときに一歩も譲れぬ駆け引きが繰り広げられる外交の世界。その舞台裏が語られる機会は少ない。50歳の若さで大使に就任し、欧州・アフリカ大陸に知己が多い岡村善文・元経済協力開発機構(OECD)代表部大使に、40年以上に及ぶ外交官生活を振り返ってもらった。
【写真】南スーダン国連平和維持活動(PKO)に参加した陸上自衛隊部隊の第1陣
■2011年に誕生した南スーダン
《国連次席大使時代の2016年11月から年末にかけ、安全保障理事会で、米国主導の決議案を日本政府が潰したことがあった》
武力紛争が再燃しつつある南スーダンに対し、米国が「武器禁輸を実施する安保理決議を採択しよう」と言い出しました。
南スーダンは5年前の11年にスーダンから独立し、キール大統領が選挙で当選。国連が平和維持活動部隊(UNMISS)を派遣し、国際社会が見守る中で国家建設が順調に進むと思われました。
ところが、独立運動はさまざまな武装勢力の寄せ集めで、独立後に争いを開始。20万人に及ぶ国内避難民が生まれ、国連の保護区に殺到したのです。
■米「それだけでは足りない」
《国連は周辺国とともに調停努力を続けたが、16年7月、首都ジュバで武力衝突が起こった》
安保理は事態の安定を図るため、周辺国による「地域保護部隊(RPF)」導入を決定し、キール大統領も受け入れに同意しました。
しかし、米国は「それだけでは足りない。武器禁輸と制裁を科そう」と言い出した。武器があるから、武力紛争が生じます。武器入手を不可能にさせることは一見、良い方策に見えます。
武器禁輸は政府側には効果がある一方、反政府勢力には安保理決議は何のその、国境の外から武器を密売する連中はいくらでもいる。つまり、武器禁輸により反政府側が勢いづき、情勢が一層不安定化する危険性があるわけです。
■日本の自衛隊を危険にさらせない
《日本は当時、ジュバに駐留するUNMISSに自衛隊を派遣していた》
オバマ米政権は、キリスト教徒に同情し、南スーダン独立にテコ入れしてきた。それだけに、年が明けて発足するトランプ政権の手前、「南スーダンの安定に八方手を尽くした」と言いたい。武器禁輸や制裁の安保理決議には、そういう意味が込められていました。