勉強において、多くの人が見過ごしがちな「国語力」の重要性。全国模試で偏差値45から独学で東大に合格し、ほぼトップの成績を収めた著者が提唱する勉強法は、その常識を覆します。彼が特に強調するのは、表面的な感情表現に留まらず、より深く掘り下げて言葉にする「質問」の力です。この方法は、単に語彙力を高めるだけでなく、あらゆる科目の成績向上、さらには自己理解やコミュニケーション能力の向上にもつながるといいます。
「楽しかった」で終わらせない質問の力
親が子どもに「今日はどうだった?」と尋ねた際、多くの場合「楽しかった!」「面白かった!」という返事が返ってきます。しかし、「楽しさ」には、初めての体験にワクワクする気持ち、心地よさを伴う快感など、様々な種類があります。著者とその両親が実践していたのは、こうした一般的な表現を、より具体的な2文字に簡潔に置き換える「2文字トレーニング」と、「表現の引き出しを増やす」試みでした。これは、単に語彙を増やすだけでなく、自分の内面を深く掘り下げて言葉にする練習であり、アウトプットの幅を広げる上で非常に有効です。
身体感覚と感情の言語化が語彙力を高める
身体感覚が導く感情の言語化
感情をより豊かに表現するためのヒントとなるのが、自分の「身体的な感覚の変化」です。心と体は密接に結びついており、体の反応は心の状態を雄弁に物語ります。「頬がカッと熱くなるほど熱中した」「初めての体験で心臓がバクバクした」といった比喩表現を習得することで、語彙力は格段に高まります。著者の両親は、何か出来事があるたびに「そのとき体はどんな感じがしたの?」と積極的に問いかけ、子どもが自分の内面と向き合う機会を与えていたそうです。この問いかけは、感情と身体感覚を結びつけ、より具体的な言葉で表現する力を養います。
インプットとアウトプットの相乗効果
読解力としての「インプット」と、伝達力としての「アウトプット」は、自転車の両輪のような関係にあります。どちらか一方だけが突出して上手いという人は存在しません。アウトプットが上達すると、他者がどのように表現しているかにも自然と興味が湧き、注意を払うようになります。その結果、インプットの能力も知らず知らずのうちに向上していくのです。言葉を「使う」練習は、言葉を「理解する」能力をも同時に高める、まさに相乗効果を生み出します。
感情の言語化が育む自己理解と共感力
語彙力トレーニングは、単なる言葉遊びに留まりません。「楽しい」「つらい」といった一言で片付けがちな感情を、より丁寧に言葉で表現できるようになることで、自分自身の気持ちをより正確に把握できるようになります。これは、自己理解を深める重要なプロセスです。自己理解が深まると、自然と他人の気持ちにも敏感になり、相手の感情を言葉から読み取る力、すなわち「共感力」も高まります。結果として、語彙力の向上は、コミュニケーション能力そのものを磨き、人間関係を円滑にする上でも不可欠な要素となります。
「うまく言えない」を乗り越える粘り強さ
自分の体感や感情を繊細に言葉にするトレーニングを重ねることで、「自分って、本当はこんなふうに感じていたんだな」と、これまで気づかなかった内面に光が当たることもあります。これは、大人になって人間関係に悩むことが増えるほど、貴重な「自分を知る時間」となるでしょう。ちょっとした感情や体感を、「うまく言えないけど」で済ませずに、言葉にしようと努力すること。その小さな積み重ねこそが、伝える力と、感じ取る力を着実に鍛え、あなたの潜在能力を引き出す鍵となるのです。
参考文献
- 神田直樹 著, 『成績アップは「国語」で決まる! 偏差値45からの東大合格「完全独学★勉強法」』, ダイヤモンド社