即自部隊廃止で調整入り
企業などで働きながら、有事には自衛官として国防や災害派遣の任に就く「即応予備自衛官(即自)」制度が危機に直面している。民間にも人手不足の波が押し寄せる中、「仕事との両立が困難」と敬遠され、初めて定数の半分を割り込んだのだ。中国の台頭で沖縄方面の防衛力強化を迫られる防衛省は、福岡県の即自部隊を廃止する方向で調整に入った。(池園昌隆)
◆即応予備自衛官=非常勤の特別職国家公務員で、有事には一般隊員とともに最前線に立つ。任期は原則3年。当初は自衛隊OBに限っていたが、現在は未経験者にも門戸を広げている。このほか、主に後方支援を担う予備自衛官(約3万2500人)や、予備自の候補となる予備自衛官補(約2600人)の制度もある。
本業は美容師
陸上自衛隊福岡駐屯地(福岡県春日市)で今年2月、即自を中心に構成する第19普通科連隊の訓練が行われた。10人ほどの隊員が負傷者を手当てする手順を確認。「助けてくれ」「大丈夫か。止血するぞ」と声が飛び交い、本番さながらの緊迫感が漂った。
「即応予備陸士長」として大分市から参加した平井しのぶさん(37)の本業は美容師だ。ボランティア活動に興味を持っていたところ、客の女性自衛官に教えてもらったという。日頃からランニングなどで体も鍛えていて、「いざという時に人を助けられる力になりたい」と意気込む。
普段は運送会社や工務店などで働く隊員たちを率いる斉藤謙介3佐(37)は、「国を守ろうという高い意識で訓練についてきてくれており、頼れる仲間だと感じている」と信頼を寄せる。
欠かせぬ戦力
自衛官不足に対応するため、陸自は1997年度に即自制度を導入した。年間30日の訓練に参加した人に手当を支給する。待遇改善策の一環で、今年度からは最高で年間約108万円に増額される見通しだ。
2011年の東日本大震災で初めて招集されて以来、16年の熊本地震や24年の能登半島地震への派遣実績もある。19連隊の即応予備陸曹長、野上光正さん(54)(大分市)も東北で遺体捜索などに当たった一人だ。自衛官を一度退官した後、即自との二足のわらじで橋の部品を作る企業に勤めてきた野上さんは、「即自として残ったことで、少しはお役に立てたと思う」と振り返る。