種の違う赤ちゃんを「誘拐」したサルの衝撃映像 理由は謎、退屈しのぎの流行か


【写真特集】種の違う赤ちゃんを「誘拐」する様子

「我々がまだ見たことのない行動だと直感した」とゴールズボロ氏は言う。

映像を詳しく調べ、研究者の間でも確認した結果、オマキザルの背に乗っていたのは種類の違うホエザルの赤ちゃんだったことが分かった。

「衝撃だった」(ゴールズボロ氏)

残りの映像も確認したところ、同じ大人のオスザル(口元の傷痕から「ジョーカー」のニックネームで呼ばれている)がホエザルの赤ちゃんを連れ回す映像がほかにも見つかった。さらに、ジョーカーの真似をして同じことをしているノドジロオマキザルの別の大人のオスたちもいた。理由は分からなかった。

カメラを仕掛けたヒカロン島は、パナマから55キロ沖合いの小さな島で、コイバ国立公園の一画にある。ゴールズボロ氏はマックスプランク動物行動研究所とコンスタンツ大学の大学院生。スミソニアン熱帯研究所などと共同でサルたちの謎の行動について探り、19日の学術誌カレント・バイオロジーに発表した。

研究チームが同島で撮影された15カ月分の映像を調べた結果、ジョーカーに続いて4頭の若いオマキザルのオスが、2022年1月から23年3月の間にホエザルの赤ちゃん少なくとも11頭を拉致していたことが分かった。しかしオマキザルがホエザルの赤ちゃんを餌にしたり、世話をしたり、一緒に遊んだりしている形跡はなかった。このため誘拐行動は一種の「文化的流行」で、ヒカロン島の生態系の特異な状況の中でサルたちに表れた症状ではないかと研究チームは推測する。

それでもまだ多くの疑問が残る。その謎を解く重要性は大きい。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストによると、ヒカロン島のホエザルは絶滅の危険にさらされているマントホエザルの仲間。しかもホエザルのメスは平均で2年に1度しか出産しない。

ヒカロン島は無人島で電気はなく、地形は険しい。研究者は潮の満ち引きに合わせてボートで機材などを運ぶ必要があり、臆病なオマキザルを直接観察するのは難しい。そこで、地上で行動するサルの動きを感知して作動するカメラを仕掛けて写真や動画を撮影している。

ただ、カメラから見えない部分は観察できず、ホエザルが暮らす樹上の様子は仕掛けカメラには映らない。このためオマキザルがいつ、どうやって、なぜ赤ちゃんを拉致したのかは確認できなかった。

サルは親を亡くした同じ種や別の種のサルの赤ちゃんを「養子」にすることがある。しかしジョーカーはホエザルの赤ちゃんの面倒を見ていなかった。ただ背中に乗せているだけで、ジョーカーにメリットは何もない。授乳を絶たれた赤ちゃんは飢え、やがて死んでいった。

オマキザルはホエザルの赤ちゃんの周りで数日間過ごしながら、一緒に遊んだりはせず、乱暴な様子も見せず、ほとんど関心を示さなかった。オマキザルがわざわざ赤ちゃんを盗む理由はほとんど分かっていないと論文共著者のブレンダン・バレット氏は説明する。

ただ、バレット氏によると、ヒカロン島のオマキザルは本土のオマキザルとは違う環境で進化した。オマキザルは「破壊的で混乱を求める」性質があるといい、本土でさえ物を引き裂いたりスズメバチの巣を襲ったり、互いに取っ組み合いをしたり、別の種に嫌がらせをしたり、好奇心だけで引っかき回したりしているという。

天敵がいない島では「馬鹿なことをするリスクがさらに少ない」とバレット氏は言う。数の力に頼って身を守る必要もないことから、自由に歩き回ることもできる。

この安全さと自由のために、ヒカロン島のオマキザルは少し退屈しているのかもしれないと研究チームは推測する。

退屈は革新の原動力になることもある。特に島という環境で、そして若い個体の間で、その傾向が強い。ゴールズボロ氏の研究論文によれば、ヒカロン島とコイバ国立公園のオマキザルはこの地域で唯一、石を使って木の実を割る行動が観察されている。ヒカロン島で道具を使うのはオスのみという点も、誘拐行動と一致していた。

バレット氏もゴールズボロ氏も、人間の一時的な流行がやがて終わるように、オマキザルのこうした行動もいずれ収束することを願うと話す。あるいはホエザルがこの事態に対応して行動を順応させ、赤ちゃんを守るようになるかもしれない。

「まるで私たち自身を映す鏡のようでもある。私たちが何の目的もなく他の種に危害を加え、残虐な行動をしているように」とバレット氏は語った。



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