マルコ・ルビオ米国務長官が21日、ブラジル最高裁のアレシャンドレ・デ・モラエス判事に対して制裁を科す可能性に言及し、両国間の政治的緊張が新たな局面を迎えている。制裁の根拠とされるのは、汚職や重大な人権侵害に関与した外国当局者への措置を可能とする「マグニツキー法」だ。実施されれば、モラエス氏の米国内資産凍結や入国禁止が想定される。背景には、ボルソナロ派による「司法の政治化」批判があると同日付BBCブラジルなどが報じた。
ルビオ氏は同日開かれた米議会公聴会で、共和党のコリー・ミルズ下議の質問に答える形で発言。「制裁の検討が進行中で、実施の可能性は高い」と述べた。ミルズ氏は、ジャイル・ボルソナロ前大統領の三男で米国在住のエドゥアルド氏と連携し、モラエス氏への制裁を訴えている。
ミルズ氏は、ブラジルで言論の自由が危機に瀕しており、検閲の横行、野党・報道・国民への政治的迫害が起きていると主張。こうした「抑圧」が米国内の居住者にも及ぶ恐れがあると一方的に訴えた。
マグニツキー法は2012年、ロシアで国家汚職を告発後に拘束・死亡した弁護士セルゲイ・マグニツキー氏の事件を契機に制定された。当初はロシア当局者を対象としていたが、16年の改正で汚職や人権侵害に関与した全外国人が対象のグローバル版が成立。以後、米国外でも適用され、報告や証言に基づき、司法手続きなしに行政判断で制裁が行われる。
対象行為には超法規的処刑、拷問、強制失踪、恣意的拘禁、報道関係者や人権擁護者への妨害、公的機関による告発者弾圧が含まれる。
制裁が発動されれば、モラエス氏の米国内資産や口座は凍結、入国は禁止される。米国外での実効性は各国政府や金融機関の対応に左右されるが国際的な圧力となりうる。
この件に関し、ブラジル弁護士会(OAB)のマルクス・コエーリョ氏は、いかなる国家であれブラジルに懲罰的な域外適用を試みるのは民主主義への侮辱で、主権侵害に当たると批判。「ブラジルは二流国家ではなく、外部の司法干渉は認めない」とし、公務員への責任追及は国家の専権事項と明言した。(3)(4)
今回の動きは、ボルソナロ派によるブラジル司法批判を国際問題化させる試みと受け止められている。エドゥアルド下議はルビオ氏やミルズ氏ら共和党議員と面会を重ね、制裁支持を要請。SNS上でも「モラエスの立場は危うい」と発言した。
背景には、モラエス氏がXやランブルに対し、違法コンテンツ削除やサービス停止を命じたことへの米保守派の反発がある。24年8月、モラエス氏がXの一時停止を命じた際、ルビオ氏は「基本的自由を損なう行為」と非難していた。
2月には、トランプ大統領のメディア企業「トランプ・メディア&テクノロジー・グループ」とランブルが、フロリダ州でモラエス氏を提訴。ブラジル国外での言論統制の正当性が問われている
とはいえ、米政府が実際に制裁に踏み切るかは不透明であり、今後の動向が注視される。