第1回【オーバーツーリズム批判は外国人差別か? 富士山で連続遭難した中国人大学生に批判が殺到…専門家は「地元住民のケアと外国人排斥は無関係」】からの続き──。ニセコバブルは崩壊するか、と産経新聞が報道するとネット上では大きな反響が起きた。同紙電子版は5月7日、「『ニセコバブル』崩壊の前兆か、中国系高級リゾートが経営破綻 チャイナマネーに陰り」との記事を配信した。(全3回の第2回)
【写真】風光明媚な温泉街――。だが、その奥には“バブルの遺産”と呼ぶべき廃墟群が広がっていた
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日本では少なからぬ観光地が90年代初頭のバブル崩壊で大きな痛手を被り、それに続く「失われた30年」のデフレ経済が追い打ちをかけた。
だが北海道のニセコ地域は例外的に活況を維持したことで知られる。世界最高レベルのパウダースノーという強力な観光資源があり、2000年代には早くも多数の外国人観光客がスキー場に押し寄せて全国の注目を集めた。担当記者が言う。
「2000年代のニセコには外国人観光客だけでなく、外国資本も流入するようになりました。先陣を切ったのは香港資本との報道もあり、2010年代には欧米と中国本土の資本で高級ホテルが相次いでオープンしました。富裕層の観光客も少なくないため、飲食店は高級路線が常態化。2000円のラーメン、5000円のサンドイッチ、4万6000円の刺身盛り合わせを日本人は複雑な心境で受け止め、ネット上では『ニセコが植民地になった』という投稿に共感が集まりました。ところが今年4月にニセコの大型開発を手がけていた中国系企業が経営破綻。産経新聞は『いよいよニセコの外資バブルも崩壊する』と地元で不安の声が広がっていると報じたのです」
もともとXなどのSNSでは「ニセコから外国人観光客は出て行ってほしい」という投稿が殺到していた。
都市計画やまちづくりと観光振興の対立
外国人観光客に対する攻撃的、差別的な内容も少なくない。原文をそのまま引用することは控え、要約の形でご紹介する。
「外国人観光客を相手にバカみたいな高価格で商売をしていたニセコの飲食業者は、バブルが弾けて軒並み、廃業してほしい」
「外国人観光客ではなく、北海道民を筆頭に日本人の観光客を大切にしていれば、今も素晴らしい観光地だったはず」
「北海道の観光地は外国人だらけになり、日本の良さがなくなってしまった。外国人観光客がいなくなるのを期待するしかないが、ニセコにそういう傾向があるなら祈りたい」
オーバーツーリズムの問題に詳しい、立教大学観光学部観光学科の西川亮准教授は、全国各地で伝統的な景観を保存している地域の研究を積み重ねてきた。その際、「たとえ日本人の観光客が殺到したとしても、観光地の一部住民は反発を示す場合がある」という貴重な経験を得た。
さらに西川准教授の知見を広げたのは、大学院修士課程修了後に携わった観光庁の関連事業だった。今度は日本人観光客の殺到に悩む地元住民ではなく、観光業者や観光振興を目指す国や地方自治体の公務員と共に仕事をするようになった。
「観光客を増やすことが最大の目標ですから、まさに180度違う世界でした。住民が居住しながら観光客の目的地にもなる地域の立場と観光振興を積極的に行いたい立場という2つの“現場”を経験したことで、都市保全やまちづくりと観光事業とでは“時間軸”が全く異なることを学んだのです。まちづくりは中長期的な視野に立ち、住民が主体となって合意を得ながらじっくりと進めていくのが基本です。ところが観光振興は年度単位で観光客数や経済効果を測定しますし、さらに短期的な誘客が求められます」