第2回【中国資本の高級リゾートが経営破綻で「ニセコバブル崩壊」報道…専門家は「鬼怒川温泉の教訓」を指摘】からの続き──。XなどのSNSでは外国人観光客に対する攻撃的な投稿が非常に目立つ。外国人排斥、外国人差別と言っても決して過言ではない内容だ。(全3回の第3回)
【写真を見る】「さすがにマナー悪過ぎでは…」 オーバーツーリズムの弊害か “塀の上”に登って電車を撮影する観光客の姿も
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そのまま原文を引用するのは問題があるため、投稿の内容を和らげ、要約する形で一部をご紹介しよう。
「外国語による案内表示や、店員の外国語対応などは外国人観光客に対する過剰な配慮と見なすべきだ。来日前に日本語や日本の文化について学ばなかった外国人観光客は日本に来ないでほしい」
「ビジネスホテルの朝食バイキングで、外国人観光客は後片付けをまったくせず、椅子やテーブルもぐちゃぐちゃにして退席。あまりのマナーの悪さにホテルのスタッフも怒っていた。街中でも外国人観光客はゴミを散らかすし、整列乗車せずに電車に割り込む。日本は日本人のための国家であり、外国人観光客を受け入れる必要などない」
「外国人観光客で利益を得るのは観光業者だけだ。圧倒的多数の市民はマナー無視の外国人観光客に日常生活を脅かされている。日本は産業立国であり、経済発展を観光に頼る必要など全くない。無礼な外国人観光客は出て行ってほしい」
なぜ、これほどまでに日本人は外国人観光客を嫌うのか。その問題を考えるには、やはりオーバーツーリズムの問題は避けて通れない。
オーバーツーリズムに詳しい立教大学観光学部観光学科の西川亮准教授は「オーバーツーリズムは比較的、新しい概念だということには注意が必要でしょう」と指摘する。
「オーバーツーリズム元年」
「そもそも人間が観光を楽しむようになったのは、産業革命で交通網が整備された18世紀からです。観光自体が近代以降の歴史しか持ちませんし、20世紀の先進国に生まれ育った国民であっても、海外旅行に行けるのはごく一握りの特権的な人々だけでした。オーバーツーリズムが世界的な課題となったのは2010年代の後半からで、世界的に中産階級が増加したことやLCC(格安航空会社)が発達したことなどと密接な関係があります」
日本の場合、まず2015年に大きな変化が起きた。この年の2月、大型連休である春節休暇を利用し、多くの中国人観光客が来日した。彼らは高級ブランド品、電化製品、文房具といった日用品など多岐にわたる商品を大量購入。注目を集めて「爆買い」という流行語が誕生した。
本来なら、2015年が日本人にとっての「オーバーツーリズム元年」になって不思議はなかったのだが、そこにコロナ禍が大きな影響を与えた。
「2019年12月に始まる新型コロナウィルス感染症の拡大により、世界は観光どころではなくなりました。コロナ禍が沈静化し、日本を訪れる外国人観光客が復活したのは一昨年のことです。そして、昨年にはコロナ禍前の2019年を超える外国人観光客が日本を訪れました。その背景には、円安基調の影響も無視できません。率直に言って、『日本を訪れたかった』という外国人観光客だけでなく、『安いから来た』という観光客も増え、これがマナーの低下を招いた可能性があります。外国人観光客に対する攻撃的な投稿がネット上で目立つのは、日本が本格的に外国人観光客を受け入れるということ自体がまだ入り口に立っているに過ぎないという点も大きいでしょう。日本は昭和の時代から長年、日本人観光客を相手にした観光振興を続けてきましたから」(同・西川准教授)