日本における地方の観光名所は、朝9時から夕方5時くらいまでしか開いておらず、周辺の飲食店も早く閉まる傾向がある。そのためせっかく日本に遊びに来ているインバウンド客はホテルに缶詰状態にされ、夜間や早朝の時間を持て余してしまっていた。昨今、この「アイドルタイム」を活用して趣向を凝らしたツアーを組み、大成功している例が日本各地でいくつも生まれているという。※本稿は、永谷亜矢子『観光“未”立国〜ニッポンの現状〜』(扶桑社)の一部を抜粋・編集したものです。
● 文化施設の遊休時間 どう有効利用する?
観光旅行といえば、昼間帯に名所をものすごい勢いで巡り、夕方に宿に着いてディナーを取り、その後は就寝。そんなサイクルが“当たり前”と思われがちです。
しかし、それではお客さんがお金を落とす時間や機会は限られてしまいます。実際にインバウンド客からは「日本の飲食店やアクティビティは閉業時間が早く、夜間にやることがない」というナイトタイムへの満足度の低さを示すデータもあります。
ここでは、美術館や神社仏閣といった文化施設の遊休時間(アイドルタイム)を活用して、観光コンテンツに落とし込む方法について、紹介したいと思います。
● 観光客のお金が落ちない 「9時16時問題」
神社仏閣はおおむね午前9時に開館し、午後4時から5時あたりをめどに閉館します。観光客は、限られたこの時間帯に殺到し、夕方には各々の宿泊先へと散っていきます。せっかくの人気スポットでも1日のうち、16〜17時間は閉じているということ。
つまり、お金が落ちる時間が少ないのです。
そして、宿に到着して腰を下ろすと午後6時ごろからディナービュッフェの時間となり、午後8時には終了します。そのあとは、部屋でくつろぐぐらいしかすることがありません。
地方の二次交通が脆弱なため、そもそも「出かけたくても移動手段がないから外出できない」という現実が観光客を足止めすると同時に、客足がないため、周辺の飲食店の閉店時間も早くなりがちという悪循環が生じています。
FIT(編集部注/ツアーに参加するのではなく、飛行機などの移動手段や宿泊などを個人で手配する旅行者)全盛とはいえ、韓国や台湾からの方々は今でも観光バスを使った団体ツアーがまだまだ多く、何台ものバスに連なって訪れるため、人数はかなり多い。移動の自由度が低いがゆえ、「夜と早朝にすることがなく、ホテルに缶詰めにされる」という事態に悩まされて消費が冷え込むのは、あまりにもったいない話です。
現実的な提案としては、ホテルが旅行業法に基づいて旅行業登録を行うことで旅行業の資格を取得すれば、宿泊客の送迎が可能になり、食事後の夜間や早朝に現有のリソースから逸脱しない観光体験を提供できます。これだけで地方に訪れる観光客に新たな地域の価値体験を生み出すことができ、アイドルタイムの活用が新たなビジネスチャンスになると考えます。
行政は有名無実のコンテンツ造成に多額の予算を投じるくらいなら、こうした旅行業の取得を補助金で促したほうがいいと私は考えています。
● 夕食後や早朝の時間帯で マネタイズする方法
熊本・阿蘇などで主に宿泊事業者が主体となって行っている試みで、夜間に宿泊客をマイクロバスで星がきれいに見える高台へとお連れし、満天の夜空に輝く星々を眺めてもらう体験が人気を呼んでいます。
マイクロバスに乗せたパイプ椅子を、各々が思い思いの場所に運んで陣取り、星を眺めるという簡素な内容です。大勢のスタッフは、特段いりません。人手不足は深刻なので、ガイドも運転手が兼ねることができる体験を実施。これまで客はホテルの中ですることもなくテレビをただ眺めていたのですが、人里離れた場所ならではの満天の星空を堪能できて貴重な思い出を作れるようになりました。そして、ホテルは労を掛けずに新たな収益源を確保できるということです。