100億円は高いから1,800億円、の意味不明
資材価格や人件費の上昇を受けて建築工事費が高騰し、当初の計画どおりに進まなくなっている再開発事業が、このところ全国で増えている。JR中野駅(東京都中野区)のすぐ前に建つ複合施設「中野サンプラザ」の再開発が、事業としての成立が困難になって白紙に戻されたのは、その象徴である。
結論を先に述べれば、まずはよかったというほかない。日本を破滅に導く再開発事業が見直されるきっかけになることを願わざるをえない。
1973年に開館した中野サンプラザは、国内外のアーティストなどがコンサートを開催したホールがあることでも、その名が知られている。三角形の外観が特徴的な地上21階、高さ92メートルの大型複合ビルで、この地域のシンボルのような存在だったが、竣工から40年にも満たない2012年ごろから、再開発が検討されるようになった。
設計を手がけた日建設計の林昌二氏は、200年もつように意図したというが、耐震補強と設備更新に100億円以上を要すると診断されると、それなら建て替えるほうが合理的だ、との判断にいたったという。だが、7,000人規模のホールを備えた低層棟と、地上61階、高さ262メートルで、商業施設のほかオフィス、マンションが入る高層棟からなる複合施設の建設には、計画当初から1,810億円を要するとされていた。
耐震補強や設備更新で済ませるのとくらべて18倍もの費用がかかるのに、どうして「合理的」という判断にいたったのか、不思議でならない。ともかく、中野サンプラザは2023年7月に閉館した。
1,800億円の予定が3,500億円に
ところが、その間、事業費は予想をはるかに超えて高騰した。日本建築業連合会の資料によれば、建築資材は2021年と25年を比較して34%も値上がりしている。世界的な木材や鉄鉱石の不足、ウクライナ情勢の悪化に加え、円安の影響が加わったためである。総事業費は2024年7月には2,639億円に、同9月にはさらに900億円増える見込みとなった。
これを受け、24年12月には、野村不動産を代表企業とする事業者から、高層棟を2棟にするツインタワー計画も提示された。元来の高層棟は高さを少し抑えて工事費を抑える一方、タワーをもう1棟建て、全体の4割とされていたマンションの比率を6割に拡大。それを販売することで建設費の高騰分を補おうという目論見である。
だが、5月21日、中野区は再開発計画を断念。いったん白紙にする方針で、その解除に必要な議案を、6月の区議会に提出すると明らかにした。結果として、旧来の施設を利用する方向に進んでくれるといいのだが。
そう願うのは、この再開発のスキームにはいくつかの重大な問題があるからだ。中野サンプラザの再開発事業は、全国でも屈指の規模だが、再開発のスキーム自体は、地方の小都市における事業と共通している。それはどこからどう見ても、日本を破滅に導くスキームだというほかない。
再開発が白紙になる前、事業者はマンションが占める比率を高くする提案をしたわけだが、これは、現時点では収益性が高いマンションを多くつくることで利益を生み出す、という発想である。
しかし、これから人口減少が進み、しかも、速度を増すのが確実だという局面で、住宅の戸数を増やすことが再開発の条件になっている点で、持続可能な計画とは到底いえない。しかも、そんな計画に巨額の公費が注ぎ込まれるのが常である。中野サンプラザの再開発には、430億円もの税金が注ぎ込まれようとしていた。