高収入であれば、幸せなのか――そんな問いに対して、多くの人が「幸せだ」と回答するでしょう。一方で、誰からも羨望の眼差しを向けられる「勝ち組エリート」というキャリアから、あえて降りる人たちも。なぜ彼らは、順風満帆なキャリアを手放したのか。その理由に迫ります。
「働くために生きる」を辞めた元勝ち組エリート
厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』によると、サラリーマンの平均給与は月収で36.3万円、年収で590.8万円。月収の約3.1ヵ月分の賞与を手にしています。そこから単純に年収1,000万円超えの高給取りの割合を計算すると、サラリーマンの4.6〜8.1%となり、いかに年収1,000万円の壁が高いかがわかります。
そんな高給取りで、誰もが羨むエリート街道をまっしぐらに進んでいた田中健太さん(仮名・42歳)は、40歳を前に突如としてその座を捨て去りました。そこで選んだ道は、年収300万円の非正規社員。世間から見れば「堕ちた」と映るこの選択の裏には、一体何があったのでしょうか?
「競争心をあおられ、毎日が戦いでした。僕が働いていた部署は、全員男性だったのですが、同性しかいないと格好つける必要がないからか、対抗心やら嫉妬心やらがすごいんです。大きな受注を取ってきたもんなら、すごい陰口で……」
IT系の営業マン。朝から晩まで仕事で追われ、社内からは対抗心や嫉妬心が向けられる。仕事を頑張れば頑張るほど、評価とともに給与は上がっていく。しかし同時に追い詰められていったといいます。
「仕事にやりがいはありました。学ぶことも多かったし、会社からは評価されていた自負もあります。ただそれはあくまで会社にとっての都合。自分の人生を、会社のために生きている感覚でした。高い給料をもらっても、それを享受する時間も、体力も残されていなかったんです」
満員電車に揺られ、ストレスと疲労に満ちた日々。休日も仕事のメールに追われ、家族との時間もままなりません。田中さんは、まるで何かに急かされるように、常に走り続けていました。ある日、鏡に映る自分を見て、ハッとしたとか。
「ずいぶんとやつれた表情の自分がいて、このままでは、本当に自分が壊れてしまう、そう直感しました。頑張って働いて、高額の給与を得ることができれば、会社も家族も幸せ……しかし、自分を見失っていました。そして、ふと『この人生、本当に自分が望んでいるものなのか?』という問いが頭をよぎりました」