「余命宣告された息子のためにSwitch2を買わせて」「妊娠中の妻のために指定席を譲って」 人間ってこんなにも“権利”を主張する生き物だったんだ(中川淳一郎)


 昨今特に多いのが、予約していた新幹線の指定席に勝手に座っている人がいたという内容。あと、子どもがいるから窓際席を譲ってくれとか、夫婦で離れた席しか取れなかったので妻の隣に座るお宅の席と私の席を替わってくれ、などと言われて困ったというものも。新幹線で大型のスーツケースを置く場所は、使うには予約が必要なのに、外国人観光客が勝手に使っていて車掌を呼ぶハメになった、などのパターンも人気です。

 最近話題となったのは、苦しい状況に置かれた人は、いかなる要求をしても許されるのか、といった問題提起。できることならなんとかしてあげたいものの、それはご当人がキチンとあらかじめ準備しておくべきでは、みたいな構成の記事です。

 人気で購入予約もできない「Nintendo Switch2」についても、こんなネタが。「余命宣告された小児がん患者の息子にプレイさせてあげたいから小児がん患者に優先購入権を」と任天堂にXでお願いした母を取り上げ、話題になったのです。

 対応できかねる旨を任天堂が伝えると、大多数は任天堂の判断を支持しました。そもそも投稿者は任天堂に対し、この求めを認めれば「御社のイメージアップにつながる」と訴え、任天堂から受け取った回答を公開して「冷たい返事」とまで書き込んだのです。しかし、もしその言い分がまかり通ったら「家族が余命半年で、Switch2で遊ぶことを冥途の土産にしたいと言っています」などと虚言を弄する者が続出することでしょう。

 それにしても人間って、こんなに己が権利を主張する生き物だったんですかね。新幹線の指定席に座るなら、ちゃんと事前に購入すればいいわけで、指定席を買わないならば自由席の列に並べばいい。始発駅なら何本かやり過ごせば、座れることもあるでしょう。

 Switch2にしても、そこまでして遊びたいのなら、高額転売ヤーからでも買えばいい。不幸な境遇を押し出せば、なんでもかなうわけではありません(当然)。

 みなそれぞれ、足らざる何かを抱えて懸命に生きています。新幹線のネタなどの中には「架空の作文」もあるでしょう。しかし、あの手この手で利得をもくろむ人を取り上げた記事や彼らに誰かが毅然と対応したという記事がウケるのは、そういう無茶な手合いに遭遇し、我慢を強いられる人が世の中に今日も数限りなくいることを物語っています。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2025年5月29日号 掲載

新潮社



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