劇薬スプレーをかけられた被害者の顔はやけただれ、味覚も失うことに…。2015年、大阪府で起きた凶悪犯罪。なぜ元薬剤師の男は女子高生に劇薬スプレーをかけたのか? 2人の関係、そして事件の顛末をノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『 実録 性犯罪ファイル 猟奇事件編 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の1回目/ つづきを読む )
【写真ページ】「熱い!!」顔はやけただれ、味覚も失うことに…顔面に「劇薬スプレー」をかけられた女子高生
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顔面に液体を吹きかけられた女子高生
早朝の駅前商店街、通勤や通学する人たちが往来する中、美少女が描かれたシリコンマスクをかぶり、サングラスをかけ、ニット帽をかぶった異様な人物が自転車で行ったり来たりしていた。そこへやってきたのが女子高生の高田美和さん(18)である。シリコンマスクの不審者は彼女とすれ違うや、自転車で追いかけ、いきなり顔面にスプレー缶の液体を吹きかけた。
「ギャーッ、熱い!!」
なおも髪の毛をつかんで引きずり倒し、その上に覆いかぶさって液体を執拗にかけまくった。美和さんは両手で顔を隠すのが精一杯だった。助けに入った同級生の女子高生(18)も液体に触れてケガをした。
液体は水酸化ナトリウムで、タンパク質に素早く反応して溶かす。苛性ソーダとも呼ばれている劇薬だ。触れると皮膚がただれ、目に入れば失明の恐れもある。
そんな恐ろしいものをまき散らしたのは元薬剤師の上田和弘(43)だった。約1年前に美和さんに対するストーカー規制法違反で有罪判決を言い渡された男だった。
警察は真っ先に上田の関与を疑い、商店街の防犯カメラに異様な出で立ちの犯人が映っているのを確認。さらに聞き込み捜査を進めたところ、事件からわずか5分後に現場近くの弁当店の横にある郵便ポストにレターパック2通を押し込もうとしている不審な男がいたことを突き止めた。その店主に上田の写真を見せたところ、「この男です」と証言した。
「声をかけると、『集配が来たら渡しといてくれ』と言って、自転車で走り去りました。宛先が特定の郵便局留めになっていて、差出人と受取人はいずれも同じ名字の人物でした」
警察が宛先として書かれていた郵便局に先回りして待ち構えていたところ、上田が現れたので傷害容疑で逮捕した。
レターパックの中からは犯行に使われたとみられるシリコンマスク、サングラス、ニット帽、ネックウォーマーが見つかった。
レターパックに使用していたセロハンテープからは上田の右手の指紋が検出され、サングラスには犯行で使用された水酸化ナトリウムの成分が付着していた。ネックウォーマーには人の唾液が付着しており、それは上田のDNAと一致した。
さらに家宅捜索の結果、水酸化ナトリウムを購入した際のレシートを発見。インターネットでシリコンマスクを購入した記録も見つかった。その上、上田のスマホからは犯行現場近くのポストやトイレの場所を検索した履歴が見つかり、美和さんの通学先のバスの時刻表が保存されていた。