日本人の朝のはじまりに寄り添ってきた朝ドラこと連続テレビ小説。その歴史は1961年から64年間にも及びます。毎日、15分、泣いたり笑ったり憤ったり、ドラマの登場人物のエネルギーが朝ご飯のようになる。そんな朝ドラを毎週月から金曜までチェックし、当日の感想や情報をお届けします。朝ドラに関する著書を2冊上梓し、レビューを10年続けてきた著者による「見なくてもわかる、読んだらもっとドラマが見たくなる」そんな連載です。本日は、第45回(2025年5月30日放送)の「あんぱん」レビューです。(ライター 木俣 冬)
● ドラマを明るく楽しくする 屋村(阿部サダヲ)の存在感
屋村(阿部サダヲ)が御免与町を出ていってしまった!
序盤からずっと重要な役割を担っていた屋村。脚本家・中園ミホは「ドラマの前半はつらいことがずっと続くけれど、それをどうやって楽しく面白く、皆さんに届けられるか考えました。顔合わせでも『つらいことが続きますけど、それでも毎日毎朝見て元気になれるドラマにしたいので、みんな楽しく明るくやってください』とお願いしました。
特にヤムおんちゃん役の阿部サダヲさんにそれをお願いしたら、それに応えてちゃんとやってくださって嬉しいですね」と満足そうだったし、制作統括の倉崎憲チーフプロデューサーは「僕はずっと日本の朝には阿部サダヲが必要だと思っていました」と絶大な信頼を寄せていた。
その屋村がいなくなってしまったら『あんぱん』はどうなってしまうのか。
まずは、第45回を振り返ろう。
朝田パンが乾パンづくりを断ったため、「陸軍に逆らった」という噂が流れ、パンが売れなくなってしまう。羽多子(江口のりこ)も愛国婦人会で肩身が狭くなる。
「悪いようにはせんき」と張り付いたような笑顔の民江(池津祥子)が怖い。
● 阿部サダヲと吉田鋼太郎の 名演にランプがいい仕事
朝田家は御免与町でどういうポジションだったのか、商店街でそれなりにうまくやっていたのではなかったか。でもこんなふうにあっという間に仲間外れになってしまうとは、陸軍はそれだけ影響力が大きいのだろう。
頑なに乾パンづくりを拒む屋村(阿部サダヲ)に釜次(吉田鋼太郎)は土下座して乾パンを焼いてくれるように頼む。名誉が欲しいわけでも金が欲しいわけでもない、ただ家族のことを心配しているのだ。
ここで朝田家と御免与町の関係がわかる。
「この狭い町に暮らしゅうきこのままじゃ……。おまんも10年もここにおったらわかるじゃろう」
と苦しげに言う釜次。やっぱり、閉ざされた町の同調同圧があるようだ。こういうのはホラーより怖い。
だが屋村は泣き落としを聞くタイプではない。淡々と出ていこうとするが、釜次は「おまんとはそう簡単に切れる腐れ縁やない」と粘る。
そしてそこまで拒むのは何か理由があるからだろう、でもそれは聞かない、ただ家族のために乾パンを作ってくれと交換条件的なことを持ちかける。ここでの釜次は別人みたいに渋かった。
言わなくていいと言われると、ひねくれ者の屋村は話しはじめる。こういう人いるいる。釜次がそこまで狙ってやっていたとしたら、なかなかのものである。実はこっそり爪を隠しているタイプだったりして。
屋村の秘密はここではまだ視聴者には明かされない。焦らす!
屋村の秘密に関して書けないので、この場面の見どころを解説しよう。
この場面、阿部と吉田のほかにいい仕事をしているのが、ランプである。
この町を出ていくと言った屋村を力任せに止める釜次。でも腰が痛くなって地面に崩れる。助けようと手を差し伸べる屋村。その手をはたく釜次。かちんとなった屋村はテーブルの上に乗ったランプを持って出ていこうとする。
再度、釜次と向き合うとき、そのランプが間に置かれ、灯りがふたりを照らす。屋村がランプを持つ必然(夜出ていくため)、それを生かした照明効果。ランプの灯りが、屋村の秘密を照らし出すように見える。阿部サダヲ、吉田鋼太郎、名優がランプに照らされ、いい芝居をした。