大河ドラマ『べらぼう』葡萄酒を傾ける薩摩藩主・島津重豪の人物像、一橋治済の策略に加担する巧みなストーリー展開


【写真】江戸時代の狂歌師・太田南畝の書による銘文が刻まれている水鉢(熊野神社)

■ 大田南畝の思わぬ高評価に大喜びの蔦重

 主要な登場人物の周辺に、強い個性を持ったキャラクターを置くことができれば、物語は自然に展開していく。大河ドラマ『べらぼう』の第20回「寝惚(ねぼ)けて候」は、そんなことを実感させられる放送回となった。

 ドラマの冒頭から存在感を発揮したのが、桐谷健太演じる大田南畝である。義兄の次郎兵衛が、横浜流星演じる蔦屋重三郎に差し出したのは『菊寿草』という一冊の本。当時勢いのあった黄表紙を作品批評したもので、安達祐実演じる女郎屋のりつが「大田南畝が書いたんだよ!」と蔦重に説明している。

 大田南畝は江戸を代表する文人で、号を「蜀山人」(しょくさんじん)、狂歌名「四方赤良」(よものあから)、狂詩名は「寝惚先生」とさまざまな筆名を使い分けた人物だ。

 明和4(1767)年、19歳のときに狂詩を集めた『寝惚先生文集』を刊行。平賀源内もその才を認めていたようだ。『寝惚先生文集』の序文を描いたのは風来山人、つまり源内だ。

 ドラマでは、南畝の名を聞いた蔦重が「あー、寝惚先生か」と応じているように、この『寝惚先生文集』がベストセラーとなり、狂歌ブームに火をつけることになった。狂歌とは「五・七・五・七・七」という和歌の形式を用いて、日常卑近のことを題材にしながら、滑稽や風刺、機知を詠み込んだもの。

 そんな著名な南畝が天明元(1781)年に書いた『菊寿草』で、朋誠堂喜三二(ほうせいどう きさんじ)の『見徳一炊夢』を高く評価したというから、喜三二はもちろん、版元である蔦重にとっても、うれしい出来事となった。

 ドラマでは、蔦重が『見徳一炊夢』を取り上げてくれたお礼を伝えるために、南畝のもとを訪ねている。これは実際の行動に沿った描写で、南畝は日記『丙子掌記(へいじしょうき)』で蔦重の訪問を記している。

 ここから蔦重と南畝の交流が始まることとなった。



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