朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)第9週ラストで、“ヤムおんちゃん”こと草吉(阿部サダヲ)が朝田家を出ていった。風来坊の草吉が御免与町にやって来て、およそ10年。これが最後の出演とは考えにくいものの、一旦の“退場”と言っていいだろう。
陸軍からの乾パン作りの依頼を断ったことが“軍に逆らった”と捉えられ、街全体から非難の目を向けられることになった朝田家。婦人会の民江(池津祥子)による、強引な材料の仕向けによって、草吉は軍からの依頼を引き受けるしかなくなり、黙々と乾パンを作り始めた。羽多子(江口のりこ)をはじめとする朝田家が、今度こそ自分たちで乾パンが焼けるようになるよう、製法を教え込み、翌朝、草吉は家を出て行ったのだ。
虫の知らせか、外に出てきたのぶ(今田美桜)を、釜次(吉田鋼太郎)が引き止める。「行かせちゃれ。これ以上、あいつを苦しめたらいかんがじゃ」と。草吉が乾パンを焼いたのは、羽多子やのぶたちを思う釜次の土下座もあってのことではあるだろうが、根底には釜次に話したと思われる過去の戦争体験と、そこから生まれた「嫌なことは嫌」「適当に生きるって決めたんだ」という自身のポリシーがしっかりと草吉にはある。
憲兵隊から製造方法の書かれた書類を奪った草吉の「昔のまんまだな」というセリフから察するに、乾パンを焼いたこともあるのだろう。あれだけ強情だった釜次を納得させてしまうほどの、壮絶な体験を草吉は戦地で味わってきたことを予感させる。
『あんぱん』第10週の予告には八木信之介役・妻夫木聡の姿も
「草吉はアンパンマンを見守るジャムおじさんみたいな存在だと思うので、のぶと嵩にきっかけを与える人物としてしっかり演じたいです」と阿部サダヲは、NHKドラマ・ガイド『連続テレビ小説 あんぱん Part1』にて語っている。のぶと嵩だけでなく、出征する前の豪(細田佳央太)や、第9週では寛(竹野内豊)が亡くなった柳井医院を継ごうとする千尋(中沢元紀)までも気遣う様子があり、大人たちには厳しく口は悪いが、自分よりも下の世代には優しさを少しづつ分け与える、温かく、ほんのり甘い、そんな存在だった。
第10週のタイトルは「生きろ」。 予告では、次郎(中島歩)がのぶに話す「僕の身に何かあったら代わりに君が夢を叶えてほしいがや」というセリフに、出征を前にした嵩の敬礼姿も映し出されている。そして、嵩が所属することになる小倉連隊の上等兵・八木信之介(妻夫木聡)もついに初登場。八木は、戦後に嵩と思わぬ再会を果たし、のぶと嵩の人生に大きな影響を与えるようになる存在だ。
渡辺彰浩