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パタゴニアで遭遇した兵役を終えたばかりのユダヤ人女子2人組
ガザ地区では5月15日以降のイスラエルの攻撃による死者が500人を超えたという報道もある中で、5月24日現在、イスラエルは国際社会の非難の大合唱にもかかわらず「ハマスの無力化」という軍事目標達成のため躊躇することなく武力行使を継続している。
筆者は過去数回インド旅行中に偶然出会ったイスラエル人とパレスチナ問題について話したことがある。(25年2月9日付の拙稿『イスラエルはなぜガザ侵攻をやめないのか。インドで聞いたイスラエル若者の本音と言い分』(後半)ご参照)。
昨年総人口が1000万人を突破したイスラエルは、建国当初の国土では狭すぎて将来にわたり安全で平和な“ユダヤ民族の生存圏”を確保できない。そのため占領地帯へも入植せざるを得ないというような内情を聞いた。
年々増大する人口問題を緩和するために、在外ユダヤ人のイスラエルへの新規移住を制限して、代わりに米国などユダヤ人に寛容な国家や地域に移住する枠組みを構築することで、イスラエルが抱えるユダヤ民族の生存圏確保という根源的難問を解決できるのではないか、とイスラエルの青年のアイデアも聞いた。上記拙稿をものした時点で筆者はそのアイデアの可能性を夢想していた。
ところが、アルゼンチン南端のパタゴニアで遭遇した2人のユダヤ人女子の話を聞いて、筆者の上記の夢想は完膚なきまでに粉砕された。筆者は2人の真摯な言葉により“ユダヤ民族の生存圏確保”の深刻な歴史的背景がやっと理解できたように思う。
イスラエル国民は男女とも18歳から兵役義務があり男子は3年、女子は2年軍務に就く。2人の女子は25年初めに満期除隊となったが、彼女達が兵役に就いていた期間はガザ地区侵攻、そしてレバノン南部のヒスボラ掃討作戦と重なる。
2人のイスラエル女子の背景にあるのはホローコーストとレバノン内戦
2月23日夕刻。パタゴニアのエル・カラファテは人口4000人、モレノ・ペリト氷河やフィッツ・ロイ山への観光拠点である。筆者はエル・カラファテのホステルの共同キッチンで夕食を自炊していた。アルゼンチンは一般に日本より数割以上も物価が高い。特にパタゴニアでは外食は高く、少しでもまともな夕食をしようとすれば1人当たり5000円以上となる。それゆえ地元のスーパーで食材やワインを仕入れて自炊するバックパッカーが多い。
キッチンで一緒に炊事していた2人の少女とダイニングで夕食を食べながら歓談した。明るく可愛い雰囲気の2人はイスラエル出身だった。年齢が20歳と聞いて即座に兵役終了後の休暇旅行中なのだと理解できた。2人は身長が165センチくらいで華奢であり屈託のない笑顔からは数カ月前まで軍務に就いていたとは想像できない。
2人ともイスラエル生まれ。1人は両親がオランダ出身で子供の頃にオランダから移住。父方の祖父母はアンネ・フランク一家のようにナチスのユダヤ人狩りから逃れて息をひそめて暮らしていたという。それゆえ父親はホローコーストについて関心が深く様々な文献を集めている。
もう1人の少女の両親はレバノン出身で1980年代末に内戦中のレバノンから移住した。レバノン内戦におけるイスラム教徒の狂気を両親から何度も聞かされたという。